♯22 君と飛び絶つ
帰って5秒、ソファに1人で沈んだ。
暗い部屋にテレビの光だけ
暗闇からのブルーライトは目に刺さって痛いけど
無心のままに録画リストをスクロールしてく。
そして結局、昨日も見た映画タイトルの上に止まった
明るく幸せで平和で暖かいそんなおとぎ話チックなそれを見ても増してくのは虚しさばっかだけど停止のボタンを押す気力もないから動けない。映画もまだ序盤、1番好きなシーンに差し掛かってまた涙を流す情けない私が反射してテレビに映る度息が乱れる。けど、このシーンだけは目が離せないんだ。にしてもヒロインが屋根からジャンプを決めてただ友達を驚かせる至って明るいシーンで涙の意味が自分でもわからない
それにそのシーンが終わったらもうその映画への興味なんて消えてるんだ。ますます分からない。それでも何千回見てるんだからきっとどこかが好きなはずだから初めてその理由を考える
明るいから?幸せそうだから?あぁなりたいから?なんか違う
あ、飛びたいからか
飛びたいと思ったらもう止められない。
欲が脳を掻き乱しては収まらない。
誰かに引き止めて欲しいと思うフェーズなんてもうとうに終わったんだからどうしようもない。その誰かの役目をアルコールに任せてソファに項垂れる。そしたらまた何も出来ないまま朝が来て社会のレールに戻るんだ。
あのヒロインみたいに魔法も使えないから満員電車に揉まれて
美貌もないから上司にに押し付けられてメンタルもないから泣いたままでそれも、
あの映画とは対極で暗くて不幸で忙しくて冷たい現実
を生きてるんだから。
誰もハッピーエンドを保証してはくれないから。
自分の足元しか見えないのは選ばれなかった人間の性だから。
全部全部しょうがないんだ。
だから地べたを這い蹲ってでしか進めないんだ。
たとえ床がトレッドミルだったとしても進めてるって錯覚に縋るしかないんだ。
こんな暗い世界だから。こんな冷たい社会だから。
けどね、初めて不幸でも良かったって思えた。
だって明るい世界にいたら目の前の不幸な人になんか目もくれないでしょ?
正直君を見つけた時、世界に少し安心したんだ。
誰からも差し伸べられなかった手を差し伸べようと思った。
けど私もどん底だってことその時だけは忘れちゃってたんだ
だから結局、また下に引きずり込む形になっちゃったかもだけどね、大丈夫。これで、
ヒロインに一人でなるのは気が引けてさ
それに1人で飛ぶには覚悟も気力もなかったからさ
君がいてくれて本当に良かった。
だから今から君と飛び立とうと思うよ。
あれ、そういえば私たちに羽ってあったんだっけ?
8/21/2025, 1:08:25 PM