夢で見た話

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不思議な話を聞いた。ここ最近、上司の上司(つまり我々の長)は人の話に不思議な返しをするらしい。

否、然して是、と。
飄々としてはいるが、普段曖昧な物言いはしない方だ。上司が妙に思い聞き返したところ、更に妙な反応だったらしい。罰の悪い顔で照れていた、と。

『おおかたあの女(ひと)絡みだろう。』

付き合いの長い上司が言うならそうなのだろう。
それっきり忘れていたその話を思い出したのは今日の午後、野外訓練の帰り道でのことだ。色付き始めた山の木々に、西陽がかかって輝いていて、思った時には言葉にしていた。
きれいですね!と。

『そうでもないが、そうだね。』

あっと声に出し、慌てて口を塞ぐ。長は私の顔をしばらく見つめ、ついにお前にまでばれたか、と呟いた。
お前に " まで " とはなんですか。別に気にしていなかったが、そんな言い方をされては気になる。バレたのが最後なら答えを聞いたって良いだろう。しばらく言い渋った後、上司は言った。ちょっとした "あいことば " だ、と。

『 " 美しい " と言うのは、見目麗しいことじゃないそうだ。』

彼の女(ひと)曰く、美しいということは、
生きる歓びを知り、迷いがなく、誇り高いこと。

…あの女(ひと)は、焼け爛れてしまったこの方を美しい、と呼んだのだろうか。そうに違いない。だから答えは、
" ちがう そして その通り " 。
なんだか悔しい。…鼻の奥がつんと痛い。

『全く嫌味だよねぇ。あんな綺麗な娘に言われてもさ。』

言葉とは裏腹に長の目は微笑んでいた。
…帰ったら上司に教えてやろう。
あの人、泣いてしまうかもしれないけれど。


【愛言葉】

10/26/2023, 3:32:15 PM