相も変わらず、この世界は鬼などの化生の類が跋扈している。
自分が鬼を斬る者を志したのは、両親がそうだったから。父は俺が産まれる前の大厄災で亡くなったと聞いた。
だから、母の背中を見て育った。
母は強い。家事、育児をこなしながら毎日鍛錬を欠かさなかった。そんなに忙しくしていて倒れないかと幼心にも心配していたが、あえてそうしていたのだと成長してから知る。
自らを追い込まなければ、多忙に飲まれなければ、父を失った悲しみを乗り越えられないのだと──。
剣の師範から、父と母はとても仲が良かったのだと聞いた。師範はかつて両親と同じ班で仕事をしていて、仲を取り持ったのだと自慢気に話していた。
俺はその話を聞くのが好きだ。父のことは母からも聞いていたが、一番の友だという師範から聞く父はまた違ったもので、飽きなかった。とても人間らしくて懐が深くて人望があって、でも母に対しては奥手だったとか。
稽古をしながら思う……父が守りたかったのは、きっとこういう日常だったのだ。
まだまだ鬼が人々の安全を脅かす日々──だが、この世界は、あたたかい人の温もりに満ちている。
それを守るために、俺もまた戦うんだ……母には恥ずかしくて言えないが。
師範に言うと、とても穏やかな顔で「君たちはやっぱり親子だね」と笑った。
【この世界は】
1/16/2024, 4:39:20 AM