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借りているアパートの一室。
たいして面白くもないのに、惰性で続けているソシャゲをやりながら……
「ハックション…うぁぁん…!」
どでかいクシャミをして唸る俺。
ついこの間まで、エアコンが壊れて困り果てていたのに、いつの間にかエアコンをつける必要もないくらい涼しくなっていた。当然である。季節は秋だ。
現在の室温、22℃。いまだに部屋着がタンクトップと短パンの俺からすると、少し肌寒い。
「そうか……もう秋か……」
とはいえ、まだ夕方までは暑いので、いまだにポロシャツにデニムで仕事先に行っている俺が秋を実感するのは、夜になって窓全開でほぼ裸のような恰好でいるこの時間くらいである。
『虫の声、秋を感じますね……』
などと、ソシャゲのキャラも秋について放置ボイスで語ってくれる。

誰からもなんのリアクションもないゆえ、ついつい日記感覚で書いているが、度がすぎるのもアレなので今日のテーマ『秋晴れ』
秋……
俺にとって一番、印象が薄い季節だ。
実家にいた頃は、秋になると栗ご飯を母さんや婆ちゃんが作ってくれたし、日曜日になると、父さんが紅葉見物に皆を連れ出してくれたので、それなりに季節感があった。が、一人で暮らしている今は、あんまり実感がない。
あっちいなあ~と思っていたら、急に肌寒くなってパーカーを着込み、それから少しもしないうちに本格的に寒くなってダウンジャケットを羽織る。冬は年末を感じるので物悲しくなるけど、秋に思い入れはない。俺にとっての秋は冬までの短い繋ぎにしかすぎなかった。

数日前……
それでも、せっかくの休みなので出かけた。
家に閉じこもってユーチューブやソシャゲに耽るのは、時間の使い方としてもったいない感じがするからだ。
外は快晴だった。俺がボーっと見てるユーチューブのお天気ニュースで予報していた通りに。
いつもどおりポロシャツとデニムを着て外に出かけた俺が最初に思ったのは……
「涼しいなあ……」
気温は10月としては異常と言える、28℃を越えているはずなのに、妙に肌寒かった。
「湿気が少ないからかなぁ」
元より頭は良くないくせに、それっぽい理由をつけて納得する。
とりあえず、1キロほど先にあるリサイクルショップに散歩がてら徒歩で向かう。羽織れるような古着を買うのだ。
道中、すれ違う人々の大半が長袖を着ていた。なんだか、ポロシャツをきて、これからゴルフで一勝負するぜ!ってな感じの自分のことが無性に恥ずかしく思えてきた。
(す、涼しいけど……まだ半袖でいけるよな……変じゃないよな……?)
いい大人になっても、やっぱり自意識はあるのである。
(お、おお!!)
と、そこで俺は感嘆した。半袖短パンのおじさんとすれ違ったからである。おじさんは堂々としていた。俺もああなりたいものだ。

で……
リサイクルショップでいい感じの長袖シャツとパーカー、トレーナーを安く入手した俺は家に帰って試着をする。
「ううーん、弱そうだ……」
鏡の前で呟く。
かっこいいとか、カッコ悪いとか以前の問題であった。胸板と肩幅が狭い俺は、なにを着ても弱そうに見えてしまう。
「まあ、いいか。誰に見られるでもなし。温かければ問題なしだ!」
こういうところが、誰からも相手にされない要因だと自覚はしているが……
とりあえず試着を終え、いつものタンクトップと短パン姿に戻り、やはりというかクシャミをひとつ。
「ヘックション!!」
日が沈むと、一気に気温がグっと下がる。日中は28℃でも、夜になると急に18℃とかになるのである。この寒暖差は、もはや、地球が人間をころしにかかっているとしか思えなかった。

そして今。
「俺も、いつまでもこの姿じゃあいられないな……」
つぶやき、いつだったか母さんが送ってくれた冬用の布団の荷を解き、万年床を夏用の布団から冬用の布団に新調する。
そして、タンクトップと短パンを脱ぎ、それらを洗濯機に投げ入れ、アパートに備え付けられているクローゼットからカビ臭いジャージセットを取り出し、わが身に着用する。
「あったけえ……」
臭かったが、それはまぁ、仕方ない……
『秋晴れ』……
衣替え……
そういう季節である。

10/19/2024, 9:19:45 AM