—二人だけの世界—
この世の中にはお金持ちとそうじゃない人間で二極化している。僕は間違いなく後者だ。
「今日はあたし、行きたい場所があるの」と彼女は言った。
グレーのスカートと真っ白のニットは、シンプルで落ち着いた上品さがある。
それに比べて僕はどうだ。
ところどころ破れたジーンズに、白い無地のTシャツ。
彼女は「気にしない」と言う。
けれど、どうしても彼女と比べてしまう。
「どこへ行くの?」
「まだ内緒」彼女は人差し指を口にあてた。
彼女に連れられて、十分ほど歩いた。
本当ならタクシーでも拾いたい。パンプスを履いた彼女に、あまり歩かせたくないから。
公園の前で止まった。
「ここなんだ。この辺りを散歩してたら偶然みつけたのよ」
「公園?」
「うん。でも、ただの公園じゃないのよ。じゃあ行きましょう」
公園の入り口から進むと、長い階段に差し掛かった。
彼女が登り始めたので、僕もついていく。
「着いた!」
彼女は元気よく、楽しそうに言った。
「もうキツイ……」
対する僕は、へとへとになっていた。
一〇〇段くらいあったんじゃないだろうか。
「ほら、この公園には展望台があるの」
また二〇段ほど登ると、ベンチのある室内に入れた。
「ね、きれいでしょ?」
「うん、きれいだ……」
夕焼けに照らされた街全体が見下ろせた。
水平線にみえる夕陽が、絵のように美しい。
「あのね、今日は君にこれを渡そうと思ってたんだ」
僕は、色褪せたバッグからケースを取り出して、彼女に手渡した。
「開けてもいい?」
「もちろん」
彼女は丁寧に包装を剥がし、ケースを開いた。小さなルビーのペンダントだ。
「うれしい……。ありがとう」
彼女は目に涙を浮かべて言った。
「お誕生日おめでとう。これしか用意できなくてごめんね」
本当なら、今夜は美味しいレストランに連れて行きたかった。でも、プレゼントだけで精一杯だった。
「ううん。あなたからプレゼントをもらえるだけで、あたしはうれしい。——これ、つけてくれる?」
「うん」
僕はペンダントをつけてあげた。
予想通り、やっぱり彼女に似合っている。
「身分の差なんて、どうでも良いの。あたしはあなたを愛してる」
「僕もだよ」
「あたしを家から連れ出して。どこか遠くで一緒に暮らしましょう」
「でもそれじゃあ——」
「いいの。あたしはあなたとずっと一緒にいたい」
彼女は僕の胸に顔を埋めた。
僕は彼女のブロンド色の髪を撫でた。
「わかった。でも、大変な道になるよ」
「そんなの、とっくに覚悟してるわ」
夕陽が沈んだ。
僕は彼女の手を握り、二人で街を抜けて、見知らぬ遠くへ歩き出した。
お題:お金より大事なもの
3/9/2026, 2:10:36 AM