27(ツナ)

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「すれ違う瞳」

美術館へ行くのが僕の趣味だ。
日頃の喧騒から離れ、静かで落ち着いた空間で、様々な芸術作品に触れる。
心が穏やかになりとても落ち着いた。

足繁く通うと、学芸員の方とも親しくなっていく。年配の方が多いなか、珍しく彼女は僕と同年代くらいだった。

僕から話しかけることはなかったが、端正な顔立ちと凛とした綺麗な立ち姿が印象的だった。

ある日、作品を鑑賞していると僕の隣に彼女がやってきた。
「こんにちは。いつも来てくださってますよね。…この作品私のお気に入りなんです。」
まさか彼女の方から話しかけてくれるなんて。
「あ、こ。こんにちは。僕も、この作品に惹かれちゃって。」
「私もあなたみたいに、両方の瞳でこの作品をちゃんと見てみたかったです。」
「…え。」
彼女の方を見ると、僕の方を見ているようで片目の目線があっていなかった。
彼女の片目は義眼だったのだ。
「…僕がこんなこと言うのもおかしいんですけど。芸術作品って目で見るだけじゃないと思うんです。見て楽しむもよし、香りや空気感、ものによっては触った感覚。五感全てで楽しめると思ってます。はっきり見えなかったとしても、この作品を素敵だと感じれただけで十分ですよ。」
そう言うと、無表情だった彼女は泣きそうな顔で笑った。

5/5/2025, 8:01:23 AM