H₂O

Open App

行かないで


「行かないで」
そう言った弱々しい声と優しすぎる拘束に、仕方ないなぁ、なんて思う。
どこにも行かないよ、と嘘をついてそっとその腕から逃げ出す。少し寒くなった体を縮こませながら、置いてあった上着を羽織る。
フローリングの冷たさが素足から伝わって、小走りでリビングへと急いだ。暖房器具の電源を入れて、はやくあたたかくなれー、と目の前で待機する。
徐々に暖かくなる部屋でお湯を沸かして、ココアを作る。出来上がると同時にのそのそと歩いてきたその人に捕まる。
「……さむい、ねむい」
そんな文句に、はいはい、と腕を軽く叩きながらココアを差し出す。猫舌のせいでちびちびとしか飲めないその様子を見て、自然と頬が緩む。
おはよう、そう言ってその腕の中へと飛び込む。
「うん、おはよう」
抱きしめ返された腕は相も変わらず優しかった。

10/24/2022, 1:00:38 PM