【過ぎ去った日々】
窓を開け放つとまだ寒い風がひゅうっと吹き込んできた。はたはたとカレンダーがはためき、ダンボールのフタが浮いてパタンと落ちる。少し前までならポスターやかけていたハンガーの服もはためいていただろうが、それらは全て箱の中だ。
故郷を飛び出して一人で生きていこうと思ったのが随分前のことのように感じる。あの時もこんな風が吹き込んでくる日だった。一人きりの部屋に、不安と期待を目一杯に持ち込んで、初めて自分だけの暮らしを始めた。思えば若かったなと思うし、その初志をまだ持っていられているかと、自省するところもある。その暮らしを始めて数年後、流行病で街が静まり返った。外出もままならず、あの時ばかりは家族の元に帰れないことの苦しさに嘆きもした。
リモートワークの間にできることが増えて、そちらで道が拓けてきた。自分で決めて、職を離れた。フリーランスは大変だったし、途中で色々な仕組みが変わってしまって、混乱することもあった。協力してくれる他のフリーランス仲間と必死に切り抜けていって、やっていって、ひたすらがむしゃらに働く日々だった。
昨夏の頃に、その中の一人が起業する、と言い出したのが、ターニングポイントだった。お前に一番に声をかけた、ウチでやらないか、と。必要とされることと、一人でやっていくことと、オフィスに入ることと、リモートワークと。いろんなことを天秤にかけて悩んで悩んで、ついていくことに決めた。
前々から考えていたシェアハウスの件もあり、物件が決まって、この家を離れることになった。
ダンボール箱の中に詰めたパソコンやタブレットの中に、ぬいぐるみが一つ混じっている。
家を出る時に、まだ高校生だった妹がくれたものだ。有名ゲームのキャラクター。もはや国民的アニメにまでなったジャンル。その登場キャラの一人のぬいぐるみは、今でも変わらずに好きなものだ。リバイバルがあれば仕事の間にやるくらいは入れ込んでいる。結局そういうものからは縁がないままだが、自分の仕事に誇りはある。もし誰か自分の、後続となる人間が現れた時に、その誰かにバトンを渡せるくらいの技量はあるはずだ。そう信じるしかない。
少なくとも、ここまでの十年と少しの生活は、無駄ではなかった。そう自分に言い聞かせて、ダンボールをガムテープで閉じた。
3/10/2026, 1:24:26 AM