月が凪ぐ夜

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光が反射する硝子のティーポットで、ゆらゆらと踊る茶葉を眺めましょう。軽やかな足取りで舞う彼らは、ゆっくりとそのベルガモットの香りを醸し出す。でも踊り過ぎたら疲れてしまうから、砂時計をきちんと傾けてあげてね。
豊かな水色には温かさがあるでしょう。けれどね、冷えた氷にきらりと煌めくさざなみは、また違う顔を覗かせてくれるの。

細いグラスにマドラーをさして、いつもならこのままあなたにあげるアイスティー。
今日はちょっぴりいたずらをしましょうか。

そこに甘い甘いはちみつを入れましょう。
甘すぎては紅茶の味が拗ねてしまうから、ハニーディッパーでほんのひとさじを落としてあげて。
そしてほんの少し大人のジンを入れてみよう。
おすすめはジュネヴァだけれど、君にはまだ早いかしら? 大人の階段はゆっくり登って来てね。
そうして最後に爽やかなオレンジを添えてみて。
ほら、これがロイヤルアールグレイ。

大人になったあなたにあげる、私からの誕生日プレゼント。紅茶が好きなあなたにぴったりでしょう。




けれども僕は、もう紅茶を飲めない。
僕は君が入れてくれた紅茶が好きだったから。君の紅茶しか飲みたくなかったから。
そして僕は紅茶の香りに君を思い出し、二度と紅茶を飲むことはなかった…。


【紅茶の香り】

10/27/2023, 1:57:12 PM