どんなに真っ直ぐに道を進みたくても、それが目標を指し示す羅針盤を旅路の供にしたとて、人である限り道を踏み外すのが性であろう。人道踏み外せばそれこそ外道だ。
だからと言って、いくら道にそれても、その道中に親切にしてもらった人への礼儀の姿勢を崩してはならない。
長谷川伸の『一本刀土俵入』の茂兵衛は、見知らぬ姐さんから、横綱の夢のためにお金を工面してくれたが、結局叶わぬ夢に彷徨う風来坊になった。
それでも茂兵衛は、その姐さんの親切心に礼を言いたいと10年後、彼女と再会した。
貧困の末に、彼女の家族は夜逃げをするも借金取りに襲われてしまう。そこに、自慢の力強さで返り討ちにした茂兵衛の姿は、正に横綱の土俵入りだ。
己が道を指し示す羅針盤は、尊敬さえあれば生まれるが、この人間までも消費する現代社会に、果たしてどれほどの尊敬の念が残っているのか。
横綱茂兵衛の幕引きを飾った桜と共に散ってしまっただろうか。
(250121 羅針盤)
1/21/2025, 1:01:45 PM