このえ れい

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 失ってから初めて気づくこともある。どれほどその存在がありがたかったか、どれほど大切だったか。
 後悔しても遅い。ぞんざいに扱い、蔑ろにしたほうが悪いのだ。失くしたものの大きさを実感し、ただ床に伏すだけだ。
 ああ、お願いだ。帰ってきてくれ。もう適当にしたりしない。はなればなれはいやだ。

 僕は片方だけ残った靴下を見ながら、そんなことを思った。我ながら無の表情ではないかと自覚している。
 本当に、どこに行ってしまったのか。海外に行ったときにノリで買った派手な靴下は、やたら存在感をアピールして片方だけ目の前にある。
 なぜよりによってこれなのか。無地の靴下だって持っているのに、片方が行方不明になったのは、そのへんにある地味な靴下では合わせられないほどのド派手さだった。
 ──お前も、ひとりぼっちか。
 僕はちょっと笑った。昨日、三年付き合っていた彼女に振られた身としては、なかなか皮肉な話だった。
 お前も僕も、相方と、はなればなれだな。
 僕は片方残った派手な靴下を掴み、ゴミ箱に投げ入れた。
 こうすれば、忘れられるだろう。不都合なものは捨ててしまえばいい。たとえば、どれとも合わせられない靴下とか、不甲斐ない自分とか、未練たらたらで情けない自分とか、「あなたと付き合っていても将来が不安」とか言う薄情な彼女とか。
 膝を抱えて顔を埋める。心にぽっかりとあいた穴は、なかなか塞がりそうになかった。

11/16/2023, 3:21:16 PM