その病室は異常にきれいだった。
ごみも出ない。布団を直してやる必要もない。食事もこぼさないから、手のかかる要素はなにひとつなかった。
ただし普通の患者ではない。
ナースたちはその病室に関わるのを嫌がるか不思議がるかのどちらかだ。リネン交換の必要があるのか、などと大抵の新人は不思議がる。ただ、交換のときにはきちんと声かけするようにと言われるから、納得はしないものの、一応言われたようにしている。ただししなくても困ったことはない。手のかからない患者なのだ。
看護師さん、あの部屋の人はなんで入院してるんだい?と訊く患者への答は一応ある。でも、実は誰もそうは思っていなかった。
神様か、妖怪か、座敷わらしか。噂は散発的だ。医院長の気が狂れてるなんてのまである。
もう分かったかな。その患者、姿がないんだ。
8/2/2023, 10:41:23 PM