・世界に一つだけ
私たちはずっと、二人で一人だった。
一卵性双生児、といえば、わかってもらえると思う。お母さんは、私たちが喧嘩しないように、おもちゃも服も、同じものを買ってきた。
アニメや漫画みたいに、性格が正反対だったのなら、よかったのかもしれない。残念ながら、私と妹の性格は、見た目ほどじゃないにしろ、よく似ていた。
「お姉ちゃん。私も学級委員になったよ」
そう、妹が得意げに話す。私は傍でスマホをいじる。またか、と思う。
最近、妹は私の真似ばかりする。まるで私と自分との、ほんのわずかな隙間を埋めようとするかのように。
イラつく。イラつく。意味がわからなかった。私は早く、私になりたくて、必死なのに。
「あと、お姉ちゃんが面白いって言ってた本、読んだよ」
嬉々として語り始めた感想は、私が妹に話して聞かせたものと、全く同じ。
「ねえ。何がしたいの?私と同じことして、楽しい?」
思ったよりきつい声が出た。ひゅっと息を呑む音。ごめん、その言葉が喉元まで出かかった時だった。
「…だって、お姉ちゃんの方が何でもできるじゃん。私は頑張らないと、『お姉ちゃんの劣化版』で終わっちゃう」
今度は私が息を呑む番だった。そんなことを考えていたなんて、知らなかった。
その頃から私たちの関係は少しづつ、変わり始めたのだと、今となっては思う。
***
「病める時も、健やかなる時も、お互いを愛することを誓いますか?」
「「はい。誓います」」
ぱちぱち、盛大な拍手が巻き起こる。私が纏っているのは、真っ白なウエディングドレス。スーツ姿の彼…いや、夫はやっぱりかっこいい。こっそり見上げると、にっこり、微笑み返される。
私が私であるために。
世界で一つ、私が欲しいものを、この人は惜しみなく与えてくれる。大好きなひと。
結婚式の出席者の中には、ピシリとスーツできめた妹の姿もあった。若くしてバリバリのキャリアウーマンだ。
「お姉ちゃん!おめでとう!」
そう言った妹は、私の知らない笑顔を浮かべていた。きっと彼女も見つけたのだ。世界で一つ、彼女を彼女たらしめるものを。
9/9/2023, 1:48:56 PM