ほろ

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『第一世代のタイムマシーンが発売されて以降、様々なタイムマシーンが発売されてきましたが、ここで流行のタイムマシーンを見てみましょう!』
街頭ビジョンにニュースが流れ始めた。
女性アナウンサーのハツラツとした前置きの後、画面いっぱいに流行りのタイムマシーンが映し出される。丸いたまご型、持ち歩きできる鞄型、操作が簡単なスマホ型……色も形も様々で、タイムマシーンが普及していることがよく分かる。
「そんな時代になるのか……」
つい口に出してしまい、周りを見る。幸い、誰かに聞かれてはいないようだった。みんな、街頭ビジョンに夢中らしい。
『今やタイムマシーンは我々の生活にかかせない存在です! 流行りのタイムマシーンをおさえて、貴方も時間旅行を楽しみましょう!』
女性アナウンサーが言い切った後、画面が切り替わる。
赤い字がズラリと並ぶ。
『時間旅行に関する法律、第三十一条により十年以上先の未来へ時間旅行することは禁じられております。タイムマシーンをご利用の際はご注意ください』
ぎくり。俺は慌ててその場を走り去る。

大丈夫だ。俺が十五年前からここへ飛んできたことを、この世界の人間は知らない。きっと、バレやしない。
乗ってきたタイムマシーンが隠されている場所へ向かう。十五年前に俺の家があった場所。この世界では、廃墟になっている場所。そこは誰も知らないはずだった。
「……誰だ?」
蔦だらけの家の前に、男がいた。人懐こい笑みを浮かべて、一歩また一歩と俺に近寄ってくる。
「近寄るな!」
「酷いなぁ。第一世代のタイムマシーンでここまで来るの、大変だっただろうから労おうと思ったのに」
「……なんで……知って……」
「あれ、分からない? 俺だよ、俺」
俺、と自分の顔を指す。見覚えがない。
思考する間にも、男はどんどん近付いてくる。
「あー、こう言った方がいい? 俺は政府の人間であり、君である、って」
「は?」
ピタリ。男は俺を見下ろす位置で足を止めた。
「第三十一条違反により、対象者の記憶消去、および強制送還を行います」
先程、街頭ビジョンに映っていた鞄型のタイムマシーンが取り出される。
世界がぎゅるんと反転して、めちゃくちゃに混ぜ合わされていく中で、俺だと名乗った男が手を振っていた。

1/22/2024, 1:20:42 PM