G14

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 とあるアパートのとある部屋で、男が机に向かって勉強をしていた。
 彼はレベルの高い大学に入学するため、アパートの一室を借り勉強に励んでいるのだ。
 お金を出してくれる親に感謝しつつ、絶対に恩返しすることを誓う。
 いい大学に入って、いい会社に入る。
 それが男の目標であった。


 そしてある日の事。
 いつものように男が勉強に励んでいると、ふと背後から視線を感じた。
 後ろを振り返ってもなにも無く、あるのはボロい壁だけ……。
 男は壁を少しの間見つめた後、机に戻って勉強を再開する。
 その間も男は視線を背中に感じているにも関わらず、さらに集中を深め問題集を解き進めていく。
 
 この視線の正体は何か?
 それは二体の幽霊である。
 この部屋に住みつく幽霊たちが彼を見ているのだ。

 だが男に向ける彼らの視線は怨嗟に満ちたものではなく、諦めと感心が入り混じった複雑なものであった。
 男に霊感があまりなく、自分たちの姿に驚いてくれない……というのもある。
 それ以上に、幽霊たちは男の根性に驚嘆していたのだ。

「今日も反応薄いっすね、センパイ」
 チャラそうなコウハイ幽霊がセンパイ幽霊に声をかける。
「ああ、そうだな」
 特に感情を込めずに、センパイ幽霊は短く答える。

「あの、もう一度確認なんすけど、あの男はオレたちに気づいてるっすよね」
「それは間違いない。あの男は確実に俺たちに気づいている。霊感が無いゆえに、視線しか感じないようだが……」
「おかしいすよね。普通逃げるっすよね、幽霊なんていたら……
 オレ幽霊になったばかりだから分かんねえすけど、こういう事ってあるんですか?」
 コウハイ幽霊の疑問に、センパイ幽霊は少し考えた後答えた。

「そうだな、俺は色々な人間を見てきた。
 俺たちの存在に気づいた奴の反応は様々で、泣き叫ぶヤツ、霊媒師を呼ぶヤツ、逃げないヤツや無視するヤツもいた。
 だが、この男のようなヤツは初めてだよ。気づいたうえで、俺たちを利用する……そんなヤツはな……」
 センパイ幽霊はため息とともに吐き捨てる。
 
「やっぱり、そうすよね。この男がおかしいんですよね」
「ああ、そうだ。この男がおかしい。
 誰もいないと、勉強をサボってしまう。
 しかし誰かに見つめられると途端にサボれなくなる。
 だからこうして見られてる方が都合がいいというのは、さすがに……」
「ですよねえ」
 二体の幽霊はため息を吐きながら、男を眺めていた。
 その幽霊たちの視線の先で、男はより一層集中を深めていた。
 
 今日も今日とて、幽霊たちの背中に視線を受けて、男は勉学に励む。
 時折、幽霊のため息を感じながら、粛々と問題集を解き進めるのであった

3/29/2024, 9:59:57 AM