川柳えむ

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 随分と日が沈むのも早くなったものだ。
 よく、この高台から日が沈むのを眺めていた。
 街の全体が見渡せる高台。僕はここが大好きだった。
 ここは落ち着く。見渡せるすべてが自分の手の中にあるようで。
 世界の全てが今ここにあるようだ。

 そろそろ完全に日が沈む。
 暗くなってきていることに気付いていないのか、未だに公園で遊んでいる子供達がいる。
 遠くから鐘の音が響く。
 子供達も慌てて帰り支度を始めた。
 こうして、人々が少しずつ姿を消していく。
 それは、この世界から消えてしまったわけではない。自分のいるべき場所へと戻っていっただけだ。

 僕もそろそろかえらなければいけない。
 僕のいるべき場所は、視界に広がる世界のその先だ。
 空に融けた闇色に、身を委ねて飛び込んでいく。


『遠い鐘の音』

12/14/2025, 6:34:04 AM