1杯のうどん

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「ここでは自分のスキルが活かしきれないと思って。」

後輩がそう言い残して先週辞めていった。
 悩んだ末の決断だったようで、私が後輩に助けられていることや、会社からも存在を必要とされていることを伝えても、本人の決断は揺るがないようだった。

漠然と辞めていった後輩の事を考えながら、朝8時半の始業とともに、仕事のお供のコーヒーを淹れる。
雨が降る窓の外を見ながら、自分のスキル、自分の居場所を必死に探していた頃を、昔の自分を思い出して、後輩と重ねていた。

置かれた場所で咲きなさい。とはよく言ったもので、そんなことは限られた人にしか出来ないと、昔の自分は思っていた。私も今の場所が自分の最適な場所だとは思っていない。そういう貪欲な部分も後輩と似ていて、勝手に近しいものを感じていた。

でも時が過ぎた今ならわかる事がある。あの時の自分は、きっとここではないどこかを見ていたのだと。ここに無いものを見て、ここにあるものを見ず、どこかにあるはずのものを探していたのだと。
そしてどこでもいい、ここではないどこかに行く事だけを望んでいたんだと。

今から、後輩の彼はきっといろんな場所へ行く。でもいずれ気づく時が来るだろうが、自分がいる場所が、どこだって自分の、自分だけの居場所だ。

6/27/2024, 3:10:11 PM