300字小説
貴方のお嫁さん
初めて出会ったのは春の遠足。お弁当の良い匂いに釣られた私におかずを分けてくれたの。
その後も住む山が無くなり、里に下りた私に、毎日学校帰りに給食のパンをくれた。
交差点で車に囲まれて動けなくなっていたときは
『危ないだろ!』
と、抱きあげて助けてくれて。
あのときから決めていたの。一生、誰にも言えない秘密を抱えることになっても、私はこの人のお嫁さんになるんだって。
玄関のドアを開ける。
「ただいま」
俺の声に
「おかえりなさい」
満面の笑みを浮かべ、弾んだ足音と共に妻がキッチン駆けてくる。
嬉しそうに顔を輝かせて、抱きついてくる妻。
その尻からぴょこんと生えた焦げ茶色の尻尾には見えないふりをして、俺は妻を抱き締めた。
お題「誰にも言えない秘密」
6/5/2023, 8:25:28 PM