ミミッキュ

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"クリスマスの過ごし方"

「メリークリスマス」
「メリークリスマス。それと、お疲れ様」
 シャンパンが入ったシャンパングラスを軽くぶつけ合い、居室内に綺麗な音色を響かせる。
「朝から来てくれたってのに、ハナの世話頼んじまって……その……悪い。おまけにケーキまで……」
 クリスマスだからと言って、医院長で一人しかいない医者の為休める訳がなく、今日も業務があった。
 丸一日休みの時はあっても、それは法的な理由での休みで、月単位で見ると丸一日は珍しい。休みと言えば半日休みな事が殆どだ。
 今日は普通に朝から夕方頃まで業務だった。
 朝来て早々「何か手伝える事はないか?」と言われ、「いい」と言ったが全く引く気配がなく、結局折れて業務の間ハナのお世話を頼んでしまった。
 それに、業務を終えて買い出し中に「ここで待っていてくれ」と言うと足早に消え、仕方なく言われた通りその場で待っていたら、ケーキの箱を持って戻ってきた。
「ケーキは元々予約していた物だ。それに、今日一日貴方の力になれて光栄だった。業務だけでなく、準備や後片付けまで全て一人でやっているのを間近で見て、やはり貴方は凄い」
 憧憬の眼差しを向けながら言われる。何だかむず痒くて、思わず顔を逸らし「あっそ」と素っ気ない言葉を返す。
「そんなんいいから、早く食え。折角作ったのに冷めちまう」
 本当はもう少し凝った物を作りたかったが、作る時間が無かった上こいつが持ってきたホールケーキがある。その為、数品の簡単な料理しか作れなかった。
「そうだな。折角の久しぶりの貴方の手料理だ。冷めてしまう前に食べなくては」
 そう言うと両手を合わせ「頂きます」と呟く。その言葉に「召し上がれ」と返すと、箸を持って一口頬張りゆっくりと咀嚼する。
「どうだ?久しぶりの俺の手料理は?」
 俺自身久しく人に料理を振舞っていないので、実は内心とても緊張している。ドクドクと脈打つ心臓の音を聞きながら、飛彩の言葉を待つ。
「やはり美味いな。貴方の料理は」
「そりゃ良かった」
 得意げに言ったが、内心とてつもない安堵でいっぱいだ。
 その後は料理をつまみながらシャンパンを飲んだり談笑したり、たまにじゃれてくるハナの相手をしたりしている内に、大皿の上にあった料理は綺麗に無くなり、皿を片付けてケーキを出して切り分け、各々の小皿に載せて食べ始める。一切れのケーキにフォークを入れ、一口頬張って咀嚼する。柔らかなスポンジと軽めの生クリームが程よい甘さで美味しい。
「やっぱお前が持ってきたケーキ、美味いな。甘いけどクドくなくて食いやすい」
「口に合って良かった」
 感想を述べると、もう一口とフォークを刺して口に入れて咀嚼する。
 俺は甘いのは苦手ではないが、得意でもない。基本あまり食べないのだが、このケーキは軽めの生クリームに苺の甘酸っぱさでさっぱりしていて、とても食べやすい。
 あと二口くらい食べた後、シャンパンを一口飲む。すると、何だか頭がふわふわしてきて、身体も火照ってきた。酔いが回ってきたのだろう。
「……酔ってきたのか?」
 俺の顔色を見て問いかけてくる。
「ん〜」
 肯定の返事をするも、意図せず間延びした返しになる。もうこれ以上飲んではいけないのは、流石に自分でも分かる。
「もうお開きにしよう」
「ん〜、けどヤダ〜。一人嫌ぁ〜」
「ハナがいるだろ」
「みゃあん」
「そうだけどぉ、違う〜」
 これは悪酔いだ。我ながら面倒臭い子どものような事を口走ってしまう。全くどうしたものか。悪酔いなんてしたのは初めてだ。どうやったら自分を黙らせられる?
「どうして欲しいんだ?」
 呆れた声で聞いてくる。
「泊まってくれ〜」
 間髪入れず、ほぼ脳直な答えを発する。
「は?」
 悪酔いした俺の言葉に、素っ頓狂な声を出す。
 しょうがない。もうここまで口走ってしまったら、もう変に抗わずに利用してしまおう。
「溜まってんだろぉ?」
「……」
「俺は溜まってるけど〜?ご無沙汰だしぃ、なんなら、今ここでやりたい」
 悪酔いしている酔っ払いからの、情緒の欠片も無いお誘いだ。こんなのが自分の口から出ていると思うだけで、恥ずかしくて穴に入りたくなる。酔っているのが最大の、唯一の救いだ。
「……せめて、ベッドの上に運んでから誘って欲しかった」
「じゃあやろ〜?」
「ベッドに運んでからな」
「ケチ〜」
 冷たい言葉を放つと、急に部屋を出ていって数分で戻ってきた。手には水道水で三分の二程満たされたコップが握られている。
「まずこれを飲め」
「ん〜、分かったぁ」
 コップに口を付け、中の水道水を胃の中に流し込む。キンキンに冷えた水道水が、アルコールで火照った身体と頭を引き締めてくれる。
 ゆっくりと飲んでいき、コップの中身を三分の二程占めていた水道水を飲み干す。
「飲んだぞ〜」
 それでも完全に酔いが冷めるわけが無く、ただいつもの口調が間延びするだけだった。
 空になったコップを飛彩に渡す。まだ悪酔い状態が治らない俺から空になったコップを受け取ると、机の上に置いて俺の腕を取ると自身の肩に回して支えながら立たせてきて、ベッドの上まで歩かせて寝かせる。
「おいで?」
 両手を広げて誘う。
 食らい付くように覆いかぶさって来て、唇を奪われる。ただの触れ合いの口付けではなく、深く濃い口付け。
 数分口付けをすると、離れる。少し寂しく思っていると、互いの顔を見合う。
 舌舐りをしながらこちらを見る、雄の顔をした恋人がそこにいた。その目には、恍惚な表情を浮かべて微笑む自分が映っている。
「……ふふ」
 思わず、声が漏れた。

12/25/2023, 1:54:27 PM