『安らかな瞳』
猫を飼い始めてからわかったことがある。猫は犬に比べて表情が乏しいと言われたりするけれどそんなことはない。悪戯を咎められると気まずそうな顔をするし、被り物や服を着させると露骨に嫌そうな顔をする。
「きょうもかわいいね」
声を掛けるとそんなことはわかっていると尊大な顔をする。
猫がここに来た当初は怯えた顔の記憶しかない。元は野良猫として外で暮らしていた猫は知らない土地に連れてこられたという思いがあったのか、ケージの中で縮こまって何に対しても威嚇していた。噛み傷、引っ掻き傷が絶えない日が続いていたが、カリカリを出す人として顔を覚えられてからは少しずつケガも減り、猫の行動範囲も広がっていった。
日当たりのいい窓辺で猫がうつらうつらと微睡んでいる。三角の耳に細い目の生き物を脅かすものはここにはいない。
「最近あたたかくなってうれしいね」
安らかな瞳をした猫はまばたきをひとつするとまた午睡に戻っていった。
3/15/2024, 3:33:40 AM