『キャンドル』
学校の教室より少し大きいくらいのイベントスペースにいた人たちが一晩でどこかに消えてしまったという。あとに残っていたのは燃えさしの大きなろうそくと、何本ものろうそくの燃え殻。催事の予定には百物語と銘打たれていた。
会場の照明とおどろおどろしいBGMが絞られて、主催者が最後のろうそくを吹き消したとき、ふと闇が濃くなった気がした。百物語とはいえ、どうせ何も起こらないのだからこれが終わったらバーカウンターで何を飲もうかを考えていた。しかし一向に会場は明るくならないし、バーカウンターの小さな明かりすら見つけられない。怪談に参加していた百人ほどのひとたちの息を潜めるような気配すらもいつの間にかなく、ただひとり闇に放り出されたような気になった。
「なにゆえ喚ぶ」
「は?」
気配もないところから獣の臭気と息遣いがして問いかけられ、思わず間の抜けた返事をしてしまった。闇に溶けたなにものかが苛立ちを纏ってそこにいる。
「なにゆえ煩わせるか」
問いに対しての答えは浮かばず、加えて正体不明のものに対する恐怖が喉元を締め付けた。
「……誰ひとりとして物も言えぬとは」
苛立ちが一層増したように感じたとき、自分の意識かぶつりと途切れた。
希薄になった意識が闇の中を彷徨っている。そこには百人ほどの同じような状態になったひとたちが漂っており、みんな助からなかったのだなとぼんやりと思った。みんながみんな未練のようなものを持っていたが、留まり続けるにはパンチの足りないものばかり。だんだんと密度が薄れていく。
酒が飲みたい。バーカウンターを思い描きながら抱えた未練を思っていたが、次第に何も考えられなくなっていった。
11/20/2024, 3:43:33 AM