sairo

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少女の案内で訪れた家は、昔ながらの木造の民家だった。
引き戸を開けると、踏み固められた土の間に、吹き込む雪が白を添える。

「ここよ。ちょっと狭いけど、ゆっくりしていってね」
「おじゃまします」

少女に続いて、燈里《あかり》、冬玄《かずとら》、楓《かえで》の三人は中へと入る。雪を払い、広い土間から続く式台に上がり少女が部屋の戸を引くと、ぱちん、と火が爆ぜる音がした。遅れてじわりとした温かさが部屋の外へと広がっていく。

「遠くから、よぉ来てくれたねぇ。ささ、何もないとこだけんど、上がりんしゃい」

部屋の中。囲炉裏の前に腰を下ろした白髪の女性が囲炉裏の火を掻きながら、燈里たちを見て穏やかに微笑んだ。



「ばあちゃん。お姉さんたちね、もうヒガタを見たんだってさ」
「おや、そうなのかい。ならば今年も降りてくるんだろうから、戸締りをきっちりせんばいけんねぇ」

茶を出しながら話す少女に、女性はやはり穏やかに言葉を返す。
どうやらヒガタについて話しているようではあるものの、燈里たちには分からないものだ。

「あの、すみません。そのヒガタについて教えて頂けますか?」
「それと、あなたたちは誰で、何で手紙を送ってきたのかもね」

申し訳なさげに尋ねる燈里とは対照的に、楓は出された茶を啜りながら問いかける。その手にはいつの間にか手紙が握られており、ひらひらと動かしながら女性を見据えた。

「何だべ。何も言わんでここさ連れてきたんか」
「だって雪まみれで話すよりはいいかと思って。ごめんってば」

女性に謝りながらも、少女は手慣れた様子で燈里たちの前に茶菓子を置いていく。楓の湯飲みに新たに茶を注ぎ、女性と自分の分の湯飲みに茶を淹れると、ようやく腰を落ち着け頬を染め笑った。

「わたしね、継枝《つぐえだ》睦月《むつき》っていうの!一月に生まれたから睦月なんだよ。それでね、こっちがわたしのばあちゃん!」
「継枝久子《ひさこ》です」
「あ、私は――」
「手紙について聞きたいんだが、何故ここには誰も知りえないはずの娘とヒガタの話が書いてあるんだ?」

燈里の言葉を遮り、冬玄は手紙の内容についての疑問を切り出した。
咎めるような燈里の視線を気にせず、冬玄の目は鋭く久子を見据えている。

「手紙には、昔ヒガタについて行った娘がいて、その後からヒガタに似た何かが現れるようになったとあるけど、これじゃあ娘が原因で本当のヒガタが変質したようにも捉えられるよね。というか、これじゃあただの三流の創作話だ……この手紙を送った本当の意味は何なのかな」

楓も久子を見据え、疑問を口にする。口元は笑みが浮かんでいるものの、その視線は鋭い。
二人の視線の強さに、燈里と睦月は息を呑んだ。だが久子だけは穏やかな笑みを崩さず、湯飲みを手に取り茶を啜った。

「その手紙は、私が書いたんだ。睦月の見た夢の内容を書き記して、手当たり次第に手紙を送った……あんたたちだけだ、来てくれたんは」
「夢?」

久子の言葉に、燈里は密かに眉を寄せた。自身が今まで見てきた現実との境が分かりにくい夢を思い出し、湯飲みを持つ手に力が籠る。
もし睦月が見た夢というのが燈里の見たものと同じ類のものであるとするならば、自ずと手紙を送った理由はある程度予想はつく。

「睦月はなぁ、時々変な夢さ見る。ただの夢と区別はつかんが、手紙に書いた夢の内容だけは確かだ」
「何故言い切れる?」
「この娘を知ってるからねぇ」

口調こそは穏やかだが、その声音はどこか悲痛に沈んでいる。過去の後悔を寂しさを思い起こすように、茶うけに出された金平糖を伸ばす。
色とりどりの金平糖の中から、白と赤を手に取る。掌で転がして久子は懐かしむように目を細めた。

「咲子《さくこ》はなぁ、一番の友達だった。しっかりもんで家の手伝いもよぉやるええ子でな、弟が生きてた頃は進んで面倒も見てたもんだ」

また一つ、今度は青の金平糖を掌に乗せる。赤と離すように、白と青を転がした。

「咲子がいねくなったことは、朝に知った。雪かきさしてっときに、大人たちが慌てて村中を駆け回ってな。咲子ぉ、咲子ぉって、呼ぶんだ。咲子のおっかさんが泣きながらうちんとこさ来てな、咲子が来てねぇか聞くんだ……結局、見つかんねかった」

白の金平糖をつまみ、久子は口に放り込んだ。口の中で転がして、小さく息を吐く。

「モドキが出たんは、その次の年だ。山の入り口にぼぅっと突っ立っててなぁ、一目でちげぇって思った。皆怖がって家から出んかったのになぁ……」

ころころと金平糖を転がし、久子は呟く。青が赤に近づきぶつかって、久子はその二つを口にする。何もなくなった手のひらを見て、疲れたように笑った。

「手紙さ書いたんは、何があったんか知りたいのもあるが、誰かに覚えててもらいてぇって思ったからだ。咲子んこと、ヒガタんこと……この村の小正月の祭りんことも、全部なくなってくんが寂しくてなぁ」
「久子さん……」

何も言えず、燈里は目を伏せた。
久子は何かを求めている訳ではない。多くを諦めて、せめて僅かでも残ればと、そう思っているのだろう。

「ありがとうな。こんな遠いとこまで来てくれて、話さ聞いてくれて。今夜はご馳走にするから、泊まってけ。ゆっくりしてってな」

俯く視界に、茶請けの皿が映る。金平糖や落雁、大福など、色とりどりの和菓子が燈里たちのために盛られている。
一つ、黄色い金平糖に手を伸ばす。手の中で転がして、燈里は静かに顔を上げた。

「ありがとうございます。しばらくここにお世話になってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、好きなだけいるといい。ただ、夜は外に出んでくれ。外に繋がる戸を開けてもいけないよ」

ヒガタが来るから。

そう告げる久子に、燈里は手の中の金平糖を握りしめて、礼をした。



20260108 『色とりどり』

1/9/2026, 10:00:42 AM