300字小説
『暖かさ』の醍醐味
生徒玄関を出ると木枯らしが吹き付ける。
「うわっ! 寒っ!」
「本当に」
彼女と言い合いながら校門を出る。
だが、私はこの冬の寒さが好きだ。キンと冷えた風にピリピリする頬。そして……。
「コンビニ、寄ってく?」
「賛成!」
「私、カフェラテとあんまん」
「私はココアと肉まん」
外の駐車場で温かいものを食べる暖かさ。
「楽しかったぁ」
VRグラスを外して伸びをすると
『わざわざ寒い思いをしたいなんて解りませんね』
養育AIの呆れた声が応える。
「一年中、同じ気温のドームの中だとこういう体験がしたくなるのよ」
『しかも私にアバターまで着せて』
「『暖かい』っていうのは誰かと一緒の方がより『暖かい』のよ」
私はモニターににっと笑った。
お題「木枯らし」
1/17/2024, 11:52:39 AM