『大好きな君に』
今思えば、朝起きた時から予兆はあったんだ。
3月、春とはいえ、今日はビックリするくらい寒い。
街行く人達もコートを着込み、マスクの人も結構いる。
俺も例外なく、コートを着ている。
そして、こんな寒い日に限って、外回りが急遽入る。
「ただいま戻りました、、、」
なんとか正午前に帰社することができて、ホッとした。
午後からは会議だから。
「雪村、大丈夫か?」
同期、、、の桜井が声を掛けてきた。
「お前、顔、赤いぞ?
熱あるんじゃないか?」
「そんなコトは、、、」
言いながら、自分の席に座ろうとして、よろけたらしい、、、。
「雪村さん!?」
隣の席の女子社員、、、高崎さんの驚いた声がこもって聞こえた。
視界が暗くなって、さらに何か聞こえて、支えられたのがわかった。
あぁ、華奢な高崎さんに寄りかかってしまったのかな?
あとで、謝っておかなきゃ、、、
あれ?なんかフワッとする、、、
あれ?この香り、、、
あれ?俺、どうしたんだっけ、、、?
ハッと、目を開けた。
「あ、雪村さん、気づきました?」
至近距離に夏目の顔がある。
え?
「このまま医務室に運びますね。
雪村さん、朝からなんか顔色悪そうって思ってたんですけど、まさか熱あるとは思ってなくて、気づかなくてすみません、、、僕、、、」
俺は、夏目に所謂『お姫様抱っこ』をされていた。
降ろせ、、、とかなんとかいろいろ言いたいはずなのに、一気に怠さやらなんやらが襲ってきて、口を開くのも無理だ。
「、、、」
諦めて、夏目の肩に頭を乗せた。
伝わってくる夏目の体温とほんのり香る香水に全てを委ねて、目を閉じた。
3/5/2024, 12:03:56 AM