139

Open App

 夢中になって恋をしていた時があった。
 お酒が飲めるようになった頃、ひと足先に社会人となったサークルのOBが来る飲み会があった。そこで出会った二つ年上の先輩。真新しいスーツに身を包み、ピシッとネクタイを締めた姿が格好良く映った。去年まで同じ大学生だったとは思えないほど、すごく大人に見えた。
 もっと知りたいと思ってなんとかラインを交換して小まめにメッセージを送った。日に何度も、いや毎日送ると迷惑かと思って日を数えながら送っていたソレは、意外にも先輩からの返信が続いていた。そのうちご飯に誘われるようになって、休日はデートへ出かけるようになって。トントン拍子でお付き合いまで漕ぎ着けることができた。
 平日夜に会う大人っぽいスーツ姿も格好良いけど、休日気が抜けてラフな姿を晒してくれるところも良い。私に心を許してくれているみたいで嬉しい。
 恋は盲目。無我夢中。とにかく先輩が大好きで、他の人に取られたくなくて必死だった。これこそ人生の中で一番幸せな、運命と言っていい恋だと確信していた。


 あの頃の私へ。
 その男、あと半月もしないで浮気します。
 あなたがその男の部屋に遊びに行っている時に、浮気相手(というか不倫相手)とその旦那が乗り込んできます。
 とんでもない修羅場ですが、恋人の立場であるあなたに責任はないはずです。結婚も婚約もしていないので、法的縛りもありません。その分、慰謝料は請求できませんが。
 とりあえず一発その男をぶん殴っておいてください、私の気が済みます。


『あの頃の私へ』

5/24/2024, 1:02:53 PM