「またね!」
そう言って手を振り、駆け去ってゆくきみ。
僕はきみのことをなにも知らない。
僕が町に出た時に、たまたま出会い、
「この町を案内して!」
と手を引いていった。
このあたりの子じゃあないのはわかる。
地理に疎いし、どんなに繕っても、質の良い布を使った服はごまかせない。
どこかの貴族のお嬢様が、家がいやになって抜け出してるんだろう。
仕方ないから付き合ってあげるうちに、情が移った。
「じゃあね」
ある日、きみは「またね」ではなくそう言って去った。
それからきみは現れなくなって。
半年後、この領地のあるじさまの一人娘が、病ではかなくなったというニュースを、新聞屋が号外で配った。
新聞の似顔絵は、まぎれもなくきみだった。
数年後、僕は騎士になって、あるじさまに仕えることになった。
あるじさまの騎士になったことで、お屋敷内を歩くこともできるようになった。
きみの瞳と同じ色の紫蘭を持って、お屋敷の裏手の墓地へ向かう。
墓に花を供えて、語りかける。
「会いに来たよ」
紫蘭の花言葉は、「あなたを忘れない」
2025/03/31 またね!
3/31/2025, 10:26:22 AM