茶々

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 転居を済ませて何度目かの夜。部屋はあらかた片付きつつあり、畳まれたダンボール箱が隅に追いやられている。今はそんな自分を労わろうとベランダで一人月見酒を楽しんでいる所だ。
 眼下にはちらほらと人の行き交う姿と、所々で咲き誇る桜が見える。この頃桜まつりが行われているそうだが、桜どころか人を見に行くような気がしてならない。また去年のように夜に行こうかとも考えたが、隣にあの温もりが無い事に虚しさを覚える。
 自分より少しだけ小さな陽だまりのような手。もう何度も繋いで感覚も覚えているのに、握っても握っても手は知らない虚空を掴むばかり。
 ふと、手に何かがかすった。見ると桜の花びらだった。まだ、全て落ち切るのは先だろうか。明後日の夜まで、持ってくれるだろうか。

お題:『手は虚空を切る』

6/6/2024, 10:14:44 AM