触れたら崩れてしまいそうな精巧なビスクドールには、専用の部屋が必要であるように。危険や汚れ誘惑からその穢れぬ身を守る為には無菌の箱庭が不可欠であると。
寄り添うように佇む儚げなそのお人形を慈しみながらその人は歪な愛を囁いた。
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「全ての危険から遠ざけることは依存の助長に過ぎない」
「だが、懸命な君はもう既にその言葉すら遅いことを理解しているのだろう? 賽は投げられた。だから敢えて君にこの子の存在を明かしたのだから」
初めから嫌な予感はしていた。近頃やけに気分良さげな浮かれている様子、ペットを飼い始めたのだと、さして重要とも思えない説明を長々と語られた日。
感情の起伏の希薄なその人間がやけに上機嫌に、饒舌に、そしてどこか自慢げに表情を柔げていたから。悪い変化ではないと、だから見過ごしていた。
その違和感をもっと突き詰めていれば。もっと彼と交流していれば、彼のことを理解していれば。今更悔やんでも遅いのだけれども。
「……風切り羽根を奪い、花を手折る人間に協力する気は毛頭ない」
「それは残念だ。けれど君はこの子を見捨てられないし、私の邪魔をすることを良しとする筈がないだろ」
慈愛に満ちた、狂信者の微笑み。それをマヤカシだと言い切れたのなら、人形の様なその子供を救う手立てもあったのかもしれないけれど。
それでも非道を許容してさえも、その人の存在はこの身にとって欠かせないものであったから。
「所詮、私も同じ鳥籠の中ですから」
またひとつ。愛と引換に空を飛ぶ理由を自ら手放した。
7/25/2024, 11:10:11 AM