幽愁

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僕等に足りなかったのはきっとそんな言葉だった
其れを言えたら何かが変わっていたんだろうな

「1件の不在着信」

「〜♩、〜♩、〜♩、先輩?何あのメッセージ」
「いつも通知切ってる、なんて言うから通話出てくれないかもって
だから、文字でいれたら気づくかなーって」
「僕が先輩の通話出なかった事なんて無いでしょ?」
「確かにそうだった」

そんないつかの僕の話をしていた
先輩と出会ってから、いつでも1番に駆け付けれるように
通知は切らないようにした、なんて言ってはやらない

あの日彼女を見つけた衝撃は忘れない
いつだって昨日のように覚えている
自分の個性を貫く君が魅力的で、でもそれは君の唯一の抵抗だった
其れが1番の弱さで、彼女の全てだった
そんな魅力に気付いているのはきっと僕だけじゃなくて
それでもいちばん彼女を愛していた、誰よりも愛おしい物と思ってる
だからこそ、君の弱さへ嫉妬し恋人が出来た時には
心からのおめでとうなんて出来なかった
そんな思考回路が彼女の隣に行けなかった全てなんだろう

「1件の新着メッセージ」

「〜♩、久しぶりにそんな事して貰えたな」
「久しぶりのご挨拶はこうじゃないと」
「普通に話すって言う考えは無いの?」
「だって、急に距離あけられた」
「其れは、ごめんねでも」
「今から会えないの?」

いつも何時間とかかる身支度もその日は10分で終わらせた

家の前で煙草を吸いながら座り込む彼女を迎えに行くのが
僕等の待ち合わせ、けどそこに居たのは幸せとは遠い彼女
この1ヶ月で彼女はきっと今迄以上に血と涙を流したんだろう
それが目に見えるそんな彼女は見えると同時に抱き着いてきた

「こんなになっちゃって」
「幸せだった筈なのに、いつの日か泣いてる時間から
救われる一瞬の幸福感でしか無くなってて」
「もう良いよ、大丈夫だからね」

彼女の顔はもう限界そうだった
いつもの公園に行くと彼女は話し出した

彼女とは価値観の違いがひどいらしく、その違いを
暴言と一緒に刺されるという

「何が良くてそんなのと付き合ってる訳?」

「私にはその子しか居ないんだよ」

身体中の体温が上がった

「じゃあ今此処に居る僕は何?」
唯一言えた言葉だった

「私のいちばん特別な人」

涙を流しながらそう笑う彼女に心底惚れていた
だから、抱き締めた抱きしめる事しか出来なかった

別れた後暫くして彼女から連絡が来た

「やっぱり地元が1番だね」

「当たり前だよ、僕と先輩が出逢えた居場所なんだから」

「貴方には生きていて欲しい」

「一緒に生きようね」

そんな会話をして1ヶ月後
彼女から通話がかかってきた

「先輩?こんな朝方にどうしたの」

「何となく声が聞きたくて」

「珍しいね、会う?」

「会うとだめだから」

あの一件から僕は彼女の恋人に嫌われたらしい
だから、そういう事を言ってるんだと思った

「僕の方が幸せに出来るのに、先輩は本当に馬鹿だね」

「そうだね、ずっと分かってたけど見て見ぬふりしてた」

「今からでもきっと遅くないよ、僕じゃ不満?」

「誰よりも特別で、失いたくないからこそ恋人は望みたくなかった
無理だと分かっていても一生を縛り付けておきたくなるから」

「僕がそれを拒否すると思ってるの?ショックだな」

「私の事ならきっと何でも受け入れてくれるって思ってるよ」


「だから、別れてこの選択にした」

「は?何言ってるの」

「これ気持ち、未練たらしくごめんね」

そう言い、1件のメッセージを残し一方的に通話を切られた
地元が1番と語った彼女は別の場所で
出会ってまもない人間と帰らぬ人になった

そこから2年僕は彼女が去ったあの場所に立っていた
彼女の吸っていた煙草に火をつける、揺れる火は
風のせいか僕の視界のせいかもう分からなかった

「あの日僕あの後急いで地元中探し回ってさ
僕なら見つけられるって自信あったんだけど
何処も違くて、それ以上は中学生の僕には何も出来なかった
けど回ってきた訃報を聞いて納得したよ、地元じゃ無かったんだね」

「けど先輩なりの優しさだったんだよね」

あの日通話を切られると同時に入ったメッセージには
各SNSのパスワード等が書かれていた、見ていくと彼女の全てが
載っていた、そんな中で僕の事が書かれている垢があった
そこには僕が抱いていた感情と変わらない事が書いてある
そして1番最新にはこう書いてあった

『これを見てるって事はきっと私が全て終わらせた時なんだね』
『私は貴女が好きだった、私を慕う貴女が可愛くて
横を歩くだけで顔を赤くする貴女が愛おしかった』
『だからこそ私だけのものにしたかった』
『私と同じようにこの世界に生きにくさを感じていて
今迄の人生にコンプレックスを抱えていて、そんな貴女が今でも好き』
『だからこそ、貴女にはこれからも生きていて欲しい』
『きっとこれからある幸せを沢山感じて欲しい』
『けどきっと貴女の事だから私が死んだ後絶望に堕ちる』
『だから最期の私達の居場所を作っておく』
『私のエゴで、綺麗事だけど貴女なら受け入れてくれるはず』

そして最後の1文

『だけどやっぱり、貴女と一緒に死にたかった』


「僕が先輩にいう一緒に生きようは色んな意味が含まれてたんだよ」
「けど僕が其れを言葉にしなかったのは今を生きる先輩を
大事にしたかったからなんだよ」
「僕は先輩が生きていてくれたら良かったんだ、
例え世間から指を刺される人間になろうが、ただ生きていてくれたら」
「そしてそれに答えるように、自分を犠牲にして生きる貴女に
僕が一緒に終わらせようなんておこがましい」
「だけど、貴女がそれを願っていてくれたなら、」
「その一言でこの結末は変えられたのかな」

そんな事を空間に話しかける僕は先輩のSNSを見ていた

先輩が唯一いいねをしている投稿があった

『一緒に生きようね』

僕が投稿した物、先輩のアカウントは非公開だった為
僕側からは誰のいいねか分からなかったのだ

「先輩ってやっぱりずるい」

「僕が先輩の分も幸せになって自慢の後輩として
いつか必ずそっちに行くから、待ってて」

僕は彼女が残してくれた最期の居場所を糧に
居ない彼女と生きる事を決めた

僕と一緒に / 2025.9.24

9/23/2025, 5:42:21 PM