愛し合う二人を、好きなだけ

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小説
迅嵐



俺は全身鏡の前に座り込んでいる。足音が聞こえてきて、しまったと思った次の瞬間。ドアが開く音と共に部屋に入ってきた迅と視線が交わった。

「あ、嵐山。これさ.........え?」

迅の視線が俺の顔から下へゆるりと動く。紡がれた言葉は途切れ、顔には笑みを張りつけたまま動かない。

「......サ、サプラーイズ...」

俺は今、メイド服を着ていた。


きっかけは小さな雑談にすぎなかった。迅がスマホを眺めながらぽつり。

「メイドさん、いいなぁ」

画面を覗くと、綺麗な女性がフリルをふんだんにあしらった黒ベースのミニスカメイド服を来ている画像が表示されていた。

「こういうのが好きなのか?」

「んー、特段好きってわけじゃないけど可愛いなって」

俺は「ふうん」となんでもない様に装いながらも、指は勝手に検索をかけていた。
そして届いたのはフリフリメイドさん(Lサイズ)だった。

「...サイズ...ちょっと小さい...」

ネットで届くものは実際着てみることが出来ないのがネックだ。そして今回は少し失敗してしまった。普段の服のサイズがLだったから、そのサイズをそのまま買ってしまった結果少しサイズが合わなかったのだ。
特に胸元が苦しい。仕方なく悲鳴を上げる生地に体をねじ込み、全身鏡の前に立ってみる。

そこにはあまりにも滑稽な姿をした男がいた。

とんでもなく似合わなすぎる。メイド服から伸びる手足に筋肉が程よくついているせいで似合わなさに拍車がかかっていた。

「うわぁ.....」

買う前は喜んでくれそうだとワクワクしていた気持ちが、今は見るも耐えない程萎んでいる。やっぱり辞めよう。ああ、それがいい。これはタンスの肥やしにするのが一番だ。そう思った時だった。

こちらへ向かってくる足音が聞こえる。

しまったと思った。

そして、冒頭に戻る。

「...............」

「...............」

無言が耳に刺さる。なんとか言ってくれ!迅!
その願いが届いたのか、最初に口を開いたのは迅の方だった。

「...風邪、引くよ?」

そこかい。いやいやそこでは無いだろう。

「...もっと言うことは無いのか」

「え?......かわいい」

「???どこに目をつけてるんだお前は。どう見ても似合わなすぎるだろう」

お世辞は結構と照れ隠しに顔を背ける。恥ずかしさと布の少なさに寒さを覚え、少し震えた。

「...かわいいのはほんとだけど、風邪ひいちゃうよ?ほらこっちおいでメイドさん」

手を引かれリビングに向かう。リビングはエアコンがついてて暖かかった。

ソファに座った迅が太腿を指さす。俺は吸い寄せられるように上に乗っかった。

「この服、買ったの?」

「...買った」

「おれに喜んで欲しくて?」

「.........」

「サイズちょっと合ってないけど」

「うるさい」

距離が近いせいで胸元がキツいことを直ぐに見抜かれてしまった。顔から火が出る程恥ずかしくなってきて、迅の上から降りようとすると強く腰を抱かれた。

「なっ...!」

「んー、せっかくメイドさんになってもらったんだし、ご奉仕してもらおうかな」

迅はそう言うと、悪い顔で笑みを深めた。
俺はそんなご主人様から逃げられそうも無く、無駄な抵抗は辞め全てを委ねたのだった。

12/16/2024, 1:48:49 PM