川柳えむ

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 とうとうタイムマシーンが完成した。
「やりましたね、博士! まずはどこへ行きましょうか?」
 助手が目を輝かせている。
 まるで子供がお出かけの行き先を選ぶかのように、声が弾んでいる。
「とりあえず、100年後の未来とか見てみるか?」
 特に意味もなく決めた100年後。
 私達は子供が選んだピクニックでも楽しむかのように、タイムマシーンにお弁当、他には記録に必要な物など、たくさんの物を詰め込んで未来へと飛んだ。

 そうして飛んだ100年後の未来は、私達が想像していた楽しいものではなかった。
 灰色に染まった空。辺りには瓦礫の山ばかり。文明など到底残っていないように見えた。
「なんだこれは……」
 崩壊した世界で、私達はこの惨状の原因を探った。
 そして、わずかに形の残った建物の中に、風化しかけた日記を見つけた。
 そこに書かれた出来事を読んで、私達は言葉を失った。

 タイムマシーンを完成させたあの日。丁度、私達が未来へ飛んだすぐ後。この辺りに核が落とされたらしい。
 この一発が引き金となったようだ。それは世界を巻き込む戦争へと発展していき、人類はもうほとんど残っていないということだ。
 私達は、それを運良く逃げ延びたのだ。

 過去や未来への希望の船だと思ったこのタイムマシーンは、私達が生き延びる為のノアの方舟だったのかもしれない。


『未来への船』

5/11/2025, 10:59:53 PM