「はい。夕飯、作ってみたんだ。良かったら食べてよ。」
目の前に並べられたのは、お洒落で彩りよく盛り付けられたイタリアン。
手の込んだ料理ばかりで、きっと昼間から手間暇かけて作ってくれたのだろう。
「ほんと?ありがと!」
にぱ、と何も知らない風を装って、僕は無邪気そうに笑った。
目の前で笑う親友は、心底幸せそうな、でもどこか虚ろでやつれたような顔をしている。
1年前のあの日、事故のあった日から、彼は変わってしまった。
彼には可愛い恋人がいた。ミルクティーみたいな色に染められた茶髪に、くりくりした可愛い垂れ目。小柄で、甘い匂いがする女の子。
僕に彼女を紹介してくれた時、彼はすごくすごく嬉しそうだった。
そんな彼女が、1年前に事故で亡くなった。あまりに突然のことで、彼はもちろん、ほとんど関わりの無かった僕でさえ理解が追いつかなかった。
あの日から、彼は僕のことが見えなくなってしまった。
あの日の事故で死んだのは、彼の幼馴染で親友だった僕。彼女はなんとか生き延びて、2人で僕の死を悼んだことになっている。彼の中では。
彼のためなら、僕は僕を殺すことだってできた。髪を伸ばして、女の子らしい仕草を覚えて、声だって、喉が痛くなるまで練習して高い声を出せるようになった。
好きでもない甘い物を好むふりをして、甘ったるくてしょうがない香水を振って、彼の心を繋ぎ止めた。
今年、彼の中での僕の墓に、本来の彼女の眠る場所に行ってきた。
僕の好きな、綺麗な向日葵。墓にはおおよそ似合わないような明るい花が手向けられたのを、僕はどんな目で見たらいいのか分からなかった。
後で、彼女の好きだったヒヤシンスと勿忘草を手向けた。僕宛ての向日葵は、そのまま焼却炉に突っ込んだ。
好きでもないイタリアンを微笑んで口に詰め込みながら、味のない砂のようなそれを飲み下した。
彼の中で、僕より彼女の方が大切だった。それだけの話だ。
和食の方が好き、だなんて言えなくて、僕は今日も、僕でない僕を見つめる彼を見つめていた。
テーマ:好きじゃないのに
3/26/2026, 7:33:05 AM