杢田雲

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はっきりしてほしい。
降るのか、降らないのか。

明は玄関を開けて空を仰ぐとスマホを取り出して天気アプリを開いた。
いかにも雨が降りますよ、というどんよりした雲がかかっていたからだ。
しかし降水確率は40パーセント、曇りのち雨、というのが予報の全部だった。
のちって、何時からだ。
学校に着くまで降らないなら傘は持って行きたくない。
午後の予報は晴れで、28度にもなるという。
だいたい、ここで迷っている時間もない。部活に遅れる。
練習着の入ったナップサックは水を弾かないから、濡れたら重くなる。
明は観念して傘立てから傘を引き抜いた。

「明、おはよー」
「はよ」
徒歩十五分の距離を早足で歩き、校門の前でエリカに出くわした。
「傘持ってきたんだ?降らなかったね」
「こういう時、悔しいよな……」
空はまだどんよりしている。先ほどより空気が冷えてきたような、と思うや否や、頭にぽつりと濡れる感触があった。
「え、やだ、雨!」
エリカは咄嗟に鞄で頭を覆っていたが、雨粒は大きくて、雨脚はあっという間に激しくなった。
夏の雨だ。
明は傘を開いてエリカに差し掛けた。
重さで何となく気付いていたが、間違えて父親の傘を持ってきたようだ。
「大きいから、二人入れるだろ」
「あ、ありがとう」
多感な中学生だ。相合傘で登校、ともなれば冷やかされるのは目に見えている。
しかしこんな大雨、逃れるに越したことはない。
それに、エリカが相手なら噂になっても構わない、というくらいの気持ちはあった。
「んー、なんか、あたし」
鞄を抱きしめて大人しく隣を歩いているエリカは、チラチラとこちらを気にしている。
「明のこと好きかも!」
登校口に到着するタイミングで告げられて、呆然としているうちにエリカは上履きに履き替えて走り去ってしまった。
「かもって何だよ……?」
空は白黒ついたのに、あいまいさだけ残されて、明は天を仰いだ。

6/14/2023, 4:58:55 PM