「恋に恋していたんだな」
あまりにもしつこいものだから、言ってやる。
「……あのー、彼女いるんですよね?」
「彼女じゃないよ。親が決めた婚約者」
「なお悪いじゃないですか!」
「バレなきゃいいんだって」
あまりな返しに、呆れてものが言えない。
そのまま立ち去ろうとしたが、予想外の言葉に道を塞がれる。
「お互い恋愛感情のない、形だけの婚約者だよ。それにあの子も他の男と遊んでるし」
そう言って彼は遠くを見つめた。
「寂しいからとか、愛のない結婚したくないとか、色々理由つけたとしても浮気は浮気だと思いますけど」
冷たく言い放ち、彼の隣をすり抜ける。
ずっと好きだった人と再会して、一瞬でも喜んでしまったのは仕方ないことだ。
すぐに彼女がいると知って、残念に思うと同時に、彼女との幸せを祈ろうと決めたのに。
今さら、私に声なんてかけないでほしい。
しかも、動機は不純。
恋に恋していたんだな、私。
まさかこんな人だったなんて。
「許されない恋って、スリリングで燃えると思わない?」
「思いません!」
振り向かずに大きめの声で返す。
私は平穏な恋しかしたくない。
────スリル
11/13/2024, 4:53:30 AM