一つと言わず二つでも三つでも、いくらだって道は分岐する。ただその分岐点に気付くか気付かないか、そしてその分岐点でポイント切り替えをする者がいるかいないか、新たな物語が生まれる要素はそれだけだ。
ポイント切り替えをする者は自分かもしれないし、他の何者かかもしれない。例えば彼の場合、ポイント切り替えをする者は彼自身じゃなかった。
彼に刻まれた呪いが·····あぁ、呪いだとは思ってないのか。彼も、彼女等も。呪いなのか祝福なのか、それはどちらでもいいけれど、彼がある世界で誰かと出会った瞬間に、その〝装置〟は起動する。
その世界で出会った誰かを生涯をかけて愛するんだ。
そうして彼の〝もう一つの物語〟が分岐して、始まるんだよ。
信じられないかい?
これは私しか知らない事だからね。彼自身も知らない事なんだ。〝彼女〟の本性を知っている私だから知り得た事なんだよ。Aという世界では全てを敵に回して彼はある女を愛した。Bという世界では幼い子供の姿をしたある男と再会し、愛し続けた。そしてこの、Cという世界。彼は歳の離れた男と一つ屋根の下で生きる事を選んだ。
勿論、これは彼自身が選んだ道だ。
でもね、ポイント切り替えのきっかけは確かにあったしそういう装置が彼の中にあるのは事実なんだよ。
だって·····どれも彼女達が好きそうな物語だもの。
男はそう言って、少し寂しそうに笑った。
END
「もう一つの物語」
10/29/2024, 2:09:11 PM