お題『狭い部屋』
狭い部屋は苦手だ。
心拍数が上がって呼吸も苦しくなる。
その話を世間話のついでで主様にお話したことがある。
ある日の午後、書庫で本を読み解いていると背後から「わっ!」と声が上がった。驚いて振り返ろうとすれば、声の主はそのまま背中にぴとっとくっついてきて俺の頭を撫で始めた。
「主様? これは……?」
「ノックしたけどへんじがなかったから、フェネスどうしたのかなー? って」
そう言いながら主様はわしわし俺の頭を撫で続ける。
「すみません、集中していて気づきませんでした」
「ううん。フェネスが元気ならいいの」
ぱっと俺の前に回り込むと顔を覗き込んでこうおっしゃった。
「せまいところがにがてって言ってたでしょ。だから私がたすけにきたの」
そしてそのままぐいぐいと俺の腕を引っ張る。
「フェネスとお茶、飲んであげる。おいしいクッキーをもらってきたから紅茶はフェネスが淹れてね」
「……分かりました。それではお部屋に戻りましょう」
俺は主様の小さな手を引きながら、手狭な書庫であっても本の世界の広さに救われていることに気づいたのだった。
6/4/2023, 10:46:49 AM