桜がひらひらと舞って教室に入り込んできた。花びらの一枚が僕の手のひらに着地したところで、薫さんはニコニコと微笑んだ。
「春だねぇ」
「まぁ、もう入学式も近いので……」
「…………あれ、まだだっけ」
「はぁ……。上級生には確かに興味もないことかも知れませんけども、その体たらくはどうなんですか……」
「……まぁまぁ。えっと、来週の月曜日とかかな」
「そうですね。今日は金曜日なので、二日後……とかです」
「あはは、明日は休日登校になるわけか。初めての休日登校が入学式前とは流石に滑稽だね」
「じゃあ来ません」
「ダメだよ」
鋭い言葉で薫さんはそう言った。顔は笑ってるのに目は全く笑ってない。
美人って怒ると怖いんだな、なんて感情が過ぎる。
「さてと。それじゃあ桜にからめて今日の議題は『桜の樹の下には本当に死体が埋まってるのか』にでもするかい?」
「……は!?」
思わず大きい声が出る。
「おや、知らないかい? 『桜の樹の下には死体が埋まっている』という伝説の逸話だよ」
「…………知らないです。七不思議ですか?」
「いいや? これはどっちかっていうと花子さん並に有名だとワタシは思っていたんだけどね」
「なるほど…………?」
嘘をついているような雰囲気には全く見えないが、できれば嘘であって欲しい。怖い話は得意じゃないんだ。
「だが……知らないならこれは議論できないね」
「いなくて欲しいという願望しか出せませんが……。薫さんはいると思ってるんですか?」
「いや? 桜の樹の下に必ず死体が埋まってたらとんでもない数の死体が埋まってることになってしまう。腐臭なんかもしないからね。それにさっき言った通り逸話なのだから、誰も試したことはない。だから嘘だと思っているよ。良かったね」
優しい顔で微笑まれてもどう答えればいいのか全く分からない。ただ、死体が埋まってることを嘘だと思っていると言われて少しだけホッとした。そんな感情が顔に出てたのか、薫さんは片眉を上げて言った。
「あれだったら、今から試してみるかい? 外に出て掘ってみるかい?」
「や、辞めましょう! そんなこと!」
「あはは、冗談さ」
強く否定すれば、イタズラっぽく微笑まれて僕はため息をついた。
4/5/2025, 9:58:45 AM