冬華(トウカ)

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なんか小説っぽくなって、かなり長い作品となっています。時間がある人のみどうぞ↓



神様が舞い降りてきて、こう言った
「君、ちょっと死んで」
「…は?」
本当に、唐突だった
いつものように、薄い敷布団に寝転がり、寝ようと思ったら、急に天井が光って、謎のお爺さんが現れて、そしたら「死ね」だなんて
誰がこんなこと予想できただろう
「いや誰」
「ん?あぁ、わしは神じゃ」
頭がおかしくなっちまったかもしれない
幻覚か?あぁ、幻覚か、俺は幻覚が見えてるんだ
「ぬしは至って正常じゃよ、わしが見えるのも、この現象が起こっていることも、全て現実じゃ」
全く頭が追いつかなかったが、残念ながらこの爺さんも、「死ね」と言われたことも事実らしい
「それで、本題なんじゃが、結論から言うと、ぬしに死んで欲しいのじゃ」
「あ、嫌です」
それはシンプルに嫌だ
俺にはまだやりたいことが山ほどあるし、夢も叶えられてない
ここで死ぬなんてごめんだ
「ってか、なんで俺が死ななきゃなの?」
それはシンプルに気になった
別に人を殺したこともしたことないし、盗みを犯したわけでもない
というより、犯罪自体を犯したことはない
なんなら、人を助けたり、人の手伝いをしたり、環境保全のために運動を起こしたり、社会的に見ていいことしかやってきていないはずなのだ
「いやな?ぬしが悪いことをしていないのはそうなのじゃ。それは素晴らしいことなんじゃよ。なんじゃが…」
「なんだよ、だったら死ななくてもいいじゃねぇかよ?」
神と名乗る爺さんは、「いや、その…」とゴニョゴニョ言った後に言った
「ぬしが、善良すぎるんじゃよ」
「…え?」
初めて聞いた。善良すぎるから死ね。どういうことなのか理解できない
「いやな?そのな?ぬしが善良で、世界もかなり良い方に傾いてきているのじゃ。このままいけば、世界で問題になっていることも解決できるじゃろう」
いいことやんけ、何が悪いのか
「それはいいことなんじゃ。しかし、問題は、ぬしが一人でそれをやっていることなんじゃよ」
俺が一人でやることが悪い?何を言っているのか。誰かが動いていることを待っていたら、何も変わらないというのに
「ぬしが一人でやってしまい、このまま行くと、ぬしは神のように崇められて、わしら本当の神が崇められなくなってしまうのじゃ。そうなると、わしらの力が弱まってしまい、非常に都合が悪い。だから、ぬしには死んで欲しいのじゃよ」
まじでこいつはなんなんだ。自分の都合で人を殺すとか、物事の良し悪しの区別がつかねぇのか?神なのに?
「ということで、死んでくれ」
「いやいやいや!まてまてまてまて!」
早いなこいつ!なんの躊躇もなく殺気をぶつけてきたぞ!?ほんとに神かよ!
「なんであんたらの都合で俺が死ななきゃいけないんだよ!おかしいだろ!理不尽すぎる!」
「むぅ、そんな事言ってもな、わしらにはわしらの都合があるのじゃ。仕方なかろう」
「仕方ない訳ないだろ!だったらこっちにもこっちの都合があるってんだ!困るわ!」
「じゃあ何がしたいんじゃ、最後になんでも叶えてやるぞい」
「そういう問題じゃねぇ!?」
こいつまじで頭おかしいんじゃねぇの!?そういう問題じゃねぇだろ!自分の力で何年もかけてやっていくのが夢なのにおかしいだろ!
「じゃあ仕方ない、死んでくれ」
指先からなんか白い光が飛んできて、俺に迫る
ギリギリで交わしたが、肩に当たってしまった
かなり高温のレーザーだったらしく、痛みよりも最初に、火傷した時に近い感覚が頭に突き刺さった
「グッ…ガァァァ!」
痛い、熱い、痛い、痛い、
なんだよこれ、俺は、こんなところで死ぬのか?夢も叶えられず、ただただ善良な人間なだけで、死んでくのか?
「おっと、外してしまった…わしも身体がなまってしまったものよのう…」
そう言いながら、もう一度レーザーを打つ
俺は痛みで意識が飛びそうだったが、体を無理やり捻らせてなんとか避けた
「…面倒臭いやつじゃ、さっさと死なぬか」
あぁ、神には、慈悲なんてない
神にとって人間は、吹けば消えてしまうような、弱い蝋燭の火と一緒で、それを消すことになんの抵抗もない。なんなら、火事を防ぐために後処理をすることが当たり前なのだと、なぜか理解した
「さっさと死んでしまえ、人間よ」
俺は神に何もできないことが悔しくて、悲しくて、ただただ自分が殺されることに抗えないことが恥ずかしくて、悲しくて
神が、とても憎く感じた
そう思った瞬間、考えなくとも、体は飛び出していた
神の横を通り過ぎて、リビングのすぐそこにあるキッチンへ向かう
今日料理に使った包丁を取り、すぐにUターン
神は予想外の行動に出た俺に驚いたが、すぐにレーザーを発射しようと構える
それを確認した俺は、すぐそこに置いてあった食器カゴをぶん投げる
散乱した食器や食器カゴは、神の視界を遮り、レーザーの発射を遅らせる
その一瞬で、俺は神の懐に潜り込み、手に持った包丁で神の首を横に切り裂き、そしてそのまま、鳩尾に突き刺す
自分でも驚きだった。こんな動きができたなんて、自分でも怖い。しかし、やらなければならなかった
「…見事な動きだ、人間」
「しかし、人間ごときで、わしを殺すなど、できることもないのじゃ」
そんなことは、分かっていた
神と人間は次元が違う。人間が神に挑むことは、ミジンコが太陽に挑むことと同義であるのだ。勝てるはずもない
でも、何かしてやりたかった
そのまま神を押し倒して、馬乗りになり、ぶん殴った
ぶん殴って、ぶん殴って、自分の全てを込めて殴り続けた
殴る感触はあるのに、傷がついていかない。理不尽だよ、ほんとに
「…もう満足か?」
そう言って、右手からレーザーを出し、俺の頭を貫いた

その日をもって、近い未来「聖人」「神」と崇められるはずであった善良であるとされる人間が、善良であるとされる神によって、殺された
果たしてどちらが正しいのか。それは誰にもわからない。なぜなら、人間も、神も、どちらも自らが正しいと思ってしまっているからである。

7/27/2024, 11:37:22 AM