「2人だけの秘密」
私は夢を見る。小さな頃から、ずっと。
夢の中には、何時もある女の子がいる。私と同じくらいの歳の子。初めてその夢を見た時から、私に話しかけてきた。一緒に遊んで、お菓子を食べて、いっぱい笑って。私が熱を出して寝込んでいた時も、夢に出てきて、私を笑わせてくれた。本当に幸せだった。たまにその子がいない時もあったが、その時は決まって手紙が置いてあった。
「ちょっとでかけてくるね!きみがすきなもの、たくさんおいておいたから、それであそんでね!」
と言った感じだ。これは私が小さい時のものだが。
そして、決まって夢から覚める直前に、
「わたしの事は、誰にも言わないでね。2人だけの秘密だよ!」
と言われるのだ。なぜそんなことを言うのかは分からないが、特に誰かに言う必要もないので、話していない。
この幸せな夢が、終わることなく続いてくれたらと、ずっと思っている。
だが、少し前に、こんな内容の手紙が置いてあった。
「ごめんね、暫く会えなくなっちゃった。お別れでは無いから、安心してね。」
それから、私はあの夢を見ていない。日常生活に支障が出るわけでは無いが、やっぱり、あの子がいないのは寂しく感じる。
そんなことを考えていたある日の夜。私は久しぶりに夢を見た。
「久しぶり〜!ごめんね、ずっと会えてなくて」
「ううん、大丈夫。何かやることでもあったんでしょ?」
「うん、まあ、ね」
…なんだか寂しそうな気がする。何か悲しいことでもあったのだろうか。そう考えていると、
「今日は、きみに大切な話があるんだ。…実はね、もう会えなくなっちゃうんだ」
…は?
「な、何で?私、何かしちゃった…?」
「ううん。きみはなんにも悪くないよ。これは、元々決まってたの。きみは明日で17歳の誕生日を迎える。その日の朝6時になったらバイバイだって、そういう運命なの」
急にそんなこと言われたって、理解も、納得も出来るわけない。
「やだよ、何で、何で…!」
涙がこぼれる。だって、17年も一緒にいたんだよ。お別れなんて嫌だ。あなたがいなくちゃ、私は、私は…!
「っ、わたしだって、わたしだってお別れなんてしたくないよ!でも、どうにも出来ないの…」
あなたの目からも涙がこぼれた。あなたの泣いてるとこなんて見たくない、と思うと同時に、なぜだか、少しだけ、嬉しいな、と思ってしまった。私のためにあなたは泣いてくれるのだと思うと、私の中で何かが震えた。
「…そっか、そっかぁ。…仕方ないんだよ、ね」
「…うん、ごめんなさい」
「あなたが謝る必要なんてない!私こそ、我儘言っちゃった。ごめんね」
「ううん。わたしだって、同じ気持ちだったから。…わたしね、きみが秘密を守れたら、きみと私のお願いごとを、ひとつだけ叶えられるようになってるんだ。だから、わたしは…いつか、きみとずっと一緒にいられるようになりたい。多分、ずっと先のことになっちゃうけど…」
「私も、あなたとずっと一緒にいたい!どれだけ先でも待つよ。あなたは、私の…親友、だもん」
「…ありがとう。…もうすぐ6時に、きみが生まれた日の朝になる。最後に言わせて。わたしの親友。わたしは、またきみと会えるまで、ずっと、ずーっと、きみのことを見守ってるよ」
「っ、うん…!待っててね。大好きなあなたのこと、絶対に忘れない!」
そう伝えると、あなたは、泣きながら微笑んで、
「─────!」
何かを言って光に包まれ、消えていった。
数十年後。私は天寿を全うしようとしている。大切な人との別れには寂しさも感じるが、それ以上に、あなたと会える喜びに包まれている。この先に待つあなたとの日々を楽しみにしながら、目を瞑った。
赤子の泣き声がふたつ聞こえる。1つは自分自身のもの。そして、もうひとつはあなたのもの。願いは本当に叶った。私たちは双子として生まれてきた。きっとこれから楽しいことも、辛いことも沢山待っている。それでも、あなたと私なら乗り越えてゆける。2人だけの秘密を、胸に抱いて。
5/3/2024, 2:34:39 PM