与太ガラス

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 つまんないなぁ。

 今日の空は空っぽだ。雲がひとつも出ていない。どこまでもどこまでもずーっと青い空が続いているばかりだ。

 それは何も入っていないおもちゃ箱と同じだ。遊ぶものが何もない。退屈な時間。…僕のお家、おもちゃ箱なんてなかったっけ。

 僕はいつもこの丘の上からこの空をながめて、いつもと同じ街並みの上に広がる、ひとつとして同じものがない雲の形を楽しむのが好きだった。

 雲の形でソフトクリームとかマシュマロを想像する?そんな子どもっぽい遊びじゃない。

 すべてが美しく機能的にデザインされた自然界の中に無限に複雑で規則性のない造形が表出される、その混沌にこそ心を奪われたんだ。

 彼らは気まぐれに僕らの希望の象徴である太陽をも隠す。そして幾重にも折り重なって僕らを威圧し、深く深く世界を黒く塗り替えたと思えば、ついには稲妻を呼び起こす!カオス!これぞ地球のダイナミズムだ!

 はあ、雲がないと空想もはかどらない。

 何気なくポケットに手を突っ込むと紙の感触があった。そうだ。取り出すと美術展のチケットだった。新聞社の人がくれたとかなんか言ってたな。今日はこれを見てきなさいと言われたんだった。

 印象派?なんか良さげじゃないか。雲もないし、行ってみるか。

 そこで見たものは、言葉では言えないぐらいすごかった。見たこともない雲たちが、あっちにもこっちにもたくさんあった。コロー、クールベ、ブーダン、ピサロ…!いまは名前だけしか覚えてないけど、ぜったい画集を買ってもらおう。それで、それで…

 それで僕は、次の日から絵を描くことにした。あの丘の上から、いつもの空を見て。

10/24/2024, 12:22:16 AM