きづめ

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上京の荷物の中から覚えのない麦わら帽子を発見したのは、引越しの翌日の昼ごろだった。
春から東京の大学に通うことが決まり、一人暮らしをすると母親に告げた時は、あそう、がんばって。という淡白な返事だった。引越しの荷造りは一人で進めた。その時に麦わら帽子が紛れ込んだわけがない。じゃあ母親が入れたのだろうか。多分そうだ。なんのために?小さめのダンボールに居座る麦わら帽子を見つめていると、大きめの傷を発見した。
これは…!オレが5歳の時、つけた傷?確か木登りしてて足を踏み外し、小枝が引っかかってできた傷だ。これを皮切りに懐かしい田舎の風景がいくつも思い出される。麦わら帽子が大好きだった幼き日のオレの感動と共に。母親がオレに、東京に染まるなと言いたいのかもしれないと思った。素直な心を忘れるな、かもしれない。確かなのは、オレがちょっとだけ嬉しかったことだ。

8/11/2024, 12:42:10 PM