しゅん

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「1年後、あなたは死ぬわ」

そう言って、目の前にいる『わたし』は笑った。いまの私とさほど変わらない顔で、いまの私とは程遠い幸せな笑い方で。

「……そう」

「驚かないのね」

別に死にたい訳ではないけれど、生きてて楽しい事もない。ただなんとなく毎日を生きている私は、生死に執着はないと思っている。

ただ、

「どうせ死ぬなら、仕事辞めて旅行でもしようかな」

「そうね、それがいいわ」

目の前にいる『わたし』はまた笑ってから、くるりと私に背を向けた。

「どうせ死ぬなら、やりたいことやらなきゃ」

最後に弾む声でそう言って、目の前から消えた。と、同時に私は目を覚ます。視界に入ったのは見慣れた天井。

「……夢、」

私はベットから起き上がり、顔を洗って出勤準備をする。いつも通りの時間に家を出て、いつも通り駅まで歩いて、いつも通り改札を通る。その間も頭の中に蘇る、1年後の『わたし』。こんなに夢を覚えてること、今まであったっけ?

いつも通りの時刻にホームへ滑り込む電車。これに乗って駅4つ分。そこから歩いて10分。いつも通り出勤出来る。

「馬鹿みたい」

誰に言うでもなく呟いて、私は踵を返し、いつもと違う電車に乗った。
夢に出てきた『わたし』が、とても幸せそうに笑うから。言葉とは裏腹な、その表情の理由を私は知りたい。自然と顔は前を向いた。あ、私ワクワクしてる。私生きてるんだ。

私の1年後はどうなっているか分からないけれど。とりあえず生きてる今、やりたいことをやってみようと思ってしまった。
やらない後悔より、やった後悔って言うでしょ?



【1年後】に死ぬと言われたら、

6/24/2023, 12:53:38 PM