すずのき

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この街に引っ越してきた4月。ここに住みたかった訳では無く、何となく決まったのだ。
私の実家はすぐ近くに海があり、外に出ればいつでも潮の香りがしていた。遊ぶところといえばいつもイオン、外食といえばいつもココス、若者が減り、住む人も減り、年々街中が静かになっている気がする。
そんな地元を私も離れてしまった。
新卒で入社した会社に漠然とした不満、将来に対する不安をどうにか変えたくて無計画のまま仕事を辞めて地元を離れ、何故か引っ越してきた新しい街。
都心までは30分もあれば行ける、遊ぶところはイオン以外にもある、毎回どこへ食べに行くか迷ってしまうほどの飲食店が並んでいる。何も無い地元から見たらなんて楽しい街なんだと実感している。
そんな思いを感じながらも、実家が寂しくなる時もある。ホームシックなのか、これが。
部屋の窓を開け、床に転がり、引っ越してきたばかりの部屋の天井をぼーっと見つめる。
「…ホッホーホホー、ホッホーホホー」
実家でよく聞いたことのあるキジバトの声が聞こえたことが、なんだか嬉しかった。
何も決まっていない日々、変わらない将来への不安、慣れない生活は進んでいくが、キジバトの声になぜだか励まされた気がした。
この街で、どんな生活が待っているのだろう。どんな私になれるのだろう。そんなことを考えながら、天井を見上げ、今日もキジバトの声を聞く。

6/12/2024, 1:38:06 AM