月下の胡蝶

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お題《つまらないことでも》



灰色の日々が希望に変わってゆく。


失ったものもいつか、新しい翼をえて――。




動かなかったオルゴールが青年の手の中から、息を吹き返す。幻想花を降らせ、どこに隠れていたのか、木々の葉から、水辺から、精霊たちが出てきて曲調に合わせておどりだす。



「このオルゴールはつまらないものじゃないだろ、ほらちゃーんと生きて動いてるじゃねーか」



母から「魔法の宝箱よ」なんて言われて、手にした古いオルゴール。どんなに調べても、なんの変哲もない――だから森に捨てようとしてたら、現れたのがどこにでもいるようないい兄風の青年だった。



「お兄ちゃんは魔法使い?!」


瞳にたくさんの星を降らせた少女に、青年は屈託のない笑顔で答える。




「そうかもな」



この日があったから。


今も私は、魔法の宝箱を大切にしている。


そして《つまらなさそうにしている少女》に、私はあの日の物語を語るのだ。そして少女の瞳は、あの日の私のようにたくさんの星を降らせて。





「すごいね、お兄ちゃんは魔法使いなの?」



8/4/2022, 11:14:09 AM