[大地に寝転び雲が流れる…目を閉じると浮かんできたのはどんなお話?]
「恩返しにきたよっ!」
「…………は?」
ちっこいガキが空をバックに俺を見下ろす。
「えっ……は?」
「だからぁっ、恩返しに来たんだって!」
「おん、返し……?」
「そう!」
「なんで、お嬢ちゃんが、俺に? 何処かでお会いしましたっけ、俺達」
「うん!!!」
「…………………………………………えぇー」
断言されてしまった。どうしよう、全く身に覚えがない。俺の人生にこんなお嬢ちゃん出演してきたことあったか? あったら流石に覚えてるだろ。
「えっと、何処で、お会いしましたっけ?」
「ここ!」
「此処!?」
いやいやいやいやいやいや、ありえん。この何もない草原で? 見晴らしがいいけど誰も来ない俺の特等席で? ……無いな。
「人違いだと思うな、お嬢さん。 お父さんとお母さんは何処かな? 女の子がこんな山奥に一人で来たら駄目でしょ。ほら、一緒に探してあげるかr――うわっ!」
起き上がろうとした瞬間、眼の前の嬢ちゃんに思いっきり額を押し返されて頭が地面に叩き付けられる。草が茂っていたから痛みは感じなかったものの、小さい子供、しかも女の子に押し返された心境は最悪でしかない。
が、俺は大人なので我慢して極力怖がらせないようにと笑顔を浮かべる。
「お、お嬢さん? 一体どうして頬を膨らませているのかな…」
むくれたいのは正直俺の方な気がしてならない。誰も来ない特等席の草原で気持ちよく昼寝をしてたら突然ちっこい女の子に意味不明に絡まれてる。狐にでもつままれた気持ちだ。誰か助けてほしい。
「わ、たしは!おにーさんに、た、すk……った、き…っ…す、だから恩返しに来たの!」
「ご、ごめん。恩返ししか聞こえなかった。もう一回、言ってくれる?」
そうこうとしてるうちに辺りが夕陽に照らされる。この子がどこから来たのか、どうして俺に恩返ししたがってるのかは分からず終いだったがこんな子供を一人で山に置いていく訳にもいかず。
「いいか? 今日だけ仕方なく泊めるけど、明日はちゃんとお父さんやお母さん一緒に探すぞ。あ、あとちゃんと「このお兄さんが助けてくれた」って説明もするんだぞ? 」
「……………………」
「返事は?」
「……………………………………はぁい」
「ったく」
不服そうな態度を隠そうともしないこいつの態度につい笑みが零れた。ただの子供にしか見えないし繋いでいる手だって子供のそれでしかない。一切素性も知らない子供だっていうのに、俺は何故か不信感を抱いてはいなかった。
多分それはこの子の目が最初に合った時から真っ直ぐに俺を見ていたからだろう。
人間関係に疲れて逃げるように移り住んだ山間の田舎。時間がゆっくり進む場所にいたら疲弊し擦り減った心も癒やされるのではないかと思っていた。
この出会いが何をもたらすのか今の俺には見当もつかない。
それでも一つだけ、変な確信を持ってしまっているんだ。
この出会いが俺にとって『良い縁』であるんだろう、ってさ。
5/4/2023, 11:03:17 AM