とある恋人たちの日常。

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 俺の仕事は救急隊員で、医者だ。
 基本的に対応に失敗は出来ない。
 ほんの少しのミスも大惨事に繋がって行く。
 
 だから、空いている時間は日々の出来事を反芻して、訓練を続ける。ミスをしないように、身体に染み込ませていた。
 
 明日に向かって歩いていく。
 それでも――
 
 
 
「大丈夫ですか?」
 
 ぼんやりとしていた俺に恋人が声をかけてきた。
 疲れも相まって、酷い顔をしていたのかもしれない。
 
「大丈夫だよ」
 
 条件反射でそう答える。俺の言葉を聞くやいなや彼女は頬を膨らませた。
 
 これは……色々マズイと分かってしまう。このまま誤魔化すようなことをしたら彼女の信頼を失ってしまうから、俺は両手を上げた。
 
「ごめんなさい、嘘です。大丈夫じゃないです。条件反射で答えてしまいました」
 
 すると彼女は俺の頭を優しく撫でる。
 
「私にそういう隠しごとは通じませんよ」
「そうだね、ごめん」
 
 気使いをする彼女。
 幼さが残るのに、そんなふうに見えなくてもしっかりと人を見ている。
 
 俺は彼女を正面から抱きしめて瞳を閉じた。
 
「少しだけ、ここで休ませて」
「はい。少しと言わず、休んでいいんですよ?」
「そうだなー、寝る支度して甘えようかなー」
「はいっ!」
 
 返事をする声が、嬉しくて跳ねているようだな。
 
 彼女が甘えたい時に全力で甘えてくれるように、俺が甘えたい時に全力で甘えようと思った。
 
 
 
 俺は救急隊員で医者で。
 成長するために、明日に向かって歩いていく。
 でも、家に帰れば、恋人に甘える一人の男に過ぎないんだ。
 
 
 
おわり
 
 
 
二四九、明日に向かって歩く、でも

1/20/2025, 1:56:45 PM