夜叉@桜石

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黒い影をつくる堤防に座って、真っ赤なりんご飴を食べよう。
それから、長蛇の列に並んで、かき氷を買おう。
それから、新しい浴衣を着て、君に褒めてもらおう。
それから、景品は要らないけれど、射的で勝負をしよう。
それから、それから、それから、それ、か、ら、…

君たちと行くお祭りのために、たくさん計画を立てた。

お祭りの光は、この間の嵐などなかったようにカラカラと輝いていた「らしい」。
海の近くの神社は、地元の人や観光客でいっぱいだった「らしい」。
日が暮れる頃には、売り切れのお店も多くて残念そうな人がたくさんいた「らしい」。
堤防から見る花火は、大きくてとても綺麗だった「らしい」。

真っ黒な視界で、自分の部屋に閉じこもって、うずくまったまま聞いた、花火の、音。
大きくて雷みたいだったから、今もまだ苦手だ。

私は、魔法とか、呪術とか、いろんな力が使えるだろう?最近気がついたのだけれど、無意識の内に身体強化を使っているようなんだ。
少しの力で高いところまで飛べたり、
遠くの音まで良く聞こえたり、
傷の治りが早かったり、よく考えると便利だね。
実は、お祭りの次の日から、『目を閉じていても周りが見えるようになった』んだ。不思議だね。

君たちには内緒だけれど、あの日から私は視力が無い。
魔法おかげで前よりよく見えているけれど、ね。

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今回は彼の視点です。

俺は何百回か前の人生で、嵐の夜に死んだ。
俺の他には七人仲間がいるが、その日は何故か俺を含めた七人しかいなかった。
いつも通りアレ等と戦ったつもりだった。
結果は敵を倒したものの、全員重傷。
この次の週末、みんなで祭りに行こうと言っていたのに、運が悪い。
崩れる陣形、微妙に噛み合わないタイミング、効かない攻撃。その日初めて、あいつが俺たちの中で一番強いのだと知った。
脅威が去っても、動けなくては怪我の治療もできない。だんだん頭に霧がかかっていくなかで、あいつの気配がした。

あとから聞いた話だが、あいつは俺たちが戦っている時、寝ていたらしい。あいつの家の周辺にかかっていた呪いは、戦いが終わるまでその空間を外界と遮断するものだった。
何時もなら気がつく不穏な空気も、仲間の危機も、敵の気配も、何もかもがあいつに届いていなかった。戦いが終わって、目が覚めたあいつはすぐに異変に気がついただろう。どんな気持ちで、俺たちのもとへやってきたのだろうか。

俺たちは人間だが、本当に人間じゃない。アレ等と戦うために生まれてきた俺たちの死体は塵となり、魂は次の「人生」に「転生」する。
あいつは消えてゆく俺たちを見て何を思ったのか。
ただ一つわかることは、あいつがあの日以来、睡眠を嫌うようになって、あの日俺たちに降り注いだ豪雨と雷を恐れるようになったことだ。

たとえ嵐が来ようとも、
必ず守りたいと思った。

いつからか鉄の仮面をつけた君を。

7/29/2024, 12:34:45 PM