わに

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好きだった男が死んで、三年経った。
あたしはあの頃より短くなった爪の、僅かな凹凸をしげしげと眺めて、やすりどこ置いたっけ、と呟いた。

もう三年もネイルをしていない。
ネイルどころか、髪だってあんなにぐるぐる巻いていたのが今ではストレートで(しかも真っ黒。信じらんない)、今日着てる服も、某良品店にいそうなナチュラル全身ベージュ。

あたしを昔から知る友人達は、会う度、もういいんじゃないの、と言う。
それであたしは、もういいって、何がだよ、と思う。

スマホの裏に貼られたプリクラ。盛り盛りの加工で少女漫画のヒロインみたいな顔をしているアイツを、短い爪でこつこつ叩く。
「まじさぁ、死んでんじゃねぇよ」
アンタの元カノ、自爪で黒髪ストレートでナチュラルな服着た、小動物みたいな子ばっかじゃんかよ。

スマホをベッドに投げつける。
アンタがしょっちゅう泊まりに来るもんだから、奮発してダブルサイズにしたのに。まだ片手で数えられる回数しか使ってないうちに死にやがった。
「……タイプじゃないなら早く言えっつの」
あたしがギラギラの長いネイルして染めまくって傷んだ髪巻いてこの世のセクシー詰め込んだみたいな服着てたの、馬鹿みたいじゃんか。
アンタの身長なんて気にもしないでたっかいヒール履いて、真っ赤なリップをオーバーに塗ってさ。アンタの好みと真逆じゃんかよ。
けどそんな全然タイプじゃないあたしが好きだったって、何でアンタが死んだ後に、アンタの親友とかいう男から聞かされなきゃいけないんだよ。直接言えよ。
アンタの口から言われなきゃ、信じらんないし。

だからあたしは明日も、アイツ好みの服を着る。
アイツがあたしに直接、好きって言いに来るその日まで。



#不条理

3/18/2024, 11:20:59 AM