からんからんと下駄の音が鳴る。
延珠は、この村の村長の娘だ。
今月に入ってから、このお祭り日を楽しみにしていた。
ちんとんしゃんてん。ちんとんしゃん。
太鼓と笛と鈴の音が、境内にこだまする、七時半。
次第に暗くなっていく空。月が影る夜。
下駄足が、足早になる。
ざわざわと、森の奥の方で、奇っ怪な気配がする。
この気配は、なんだろう?
延珠には、この村を守るための、霊感があった。
そう、その不思議な気配は、彼女を鎮守の森の奥へと誘うように。
(誰、誰、誰……?)
声はない、気配だけが広がっていく。
白い、気配だ。
透き通って、色がない。
こんな神聖な気、感じたことがない。
白い男が立っていた。
狩衣に、烏帽子、目を引くのはその、絹糸のような銀髪と、黄色く光る、蛇の目だった。
男は口を開いた。
「そなたのことは、幼き頃より知っている」
か細い声だった。
だが、凛と張りつめたような、一本の針を想像させた。
7/28/2023, 10:14:20 AM