美坂イリス

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それは小さな頃のことでした。私の家には、大きな姿見があったことを今もよく覚えています。

ある夜中、ご不浄から部屋へと戻るときでした。
「……?」
何かの気配に周りを見渡せば、その向こうで姿見が薄らと光っていました。
「あれ……?」
私は、思わずその姿見に歩み寄っていました。そして、映った自分の顔に右手を触れたとき、私の意識は遠のきました。
「代わろうね」
そんな言葉が、聞こえた気がして。

次の朝、私はその姿見の前で倒れていたそうです。けれども、あのとき、姿見に写った私も、私へと右手を私に伸ばしていました。

果たして、あの姿見に写ったのは何だったのか。そして、もしもあの言葉が本当のものだとすれば。

この 私は、本当に私なのでしょうか。

8/18/2023, 10:19:51 AM